タイムカプセル
「タイムカプセルを埋めよう」
卒業を控えたある日、クラスの男子に声をかけられた。
贔屓にされている側の生徒が、こうして贔屓にされてない側の生徒を誘う時と言うのは大体罠が仕掛けられている。
やりたくない。
そう本音を言えば直接的な制裁があるので、とりあえず頷くと、
「出すのは10年後やから、手紙と大事なモン明日持ってきて」
なるほど、大事な物を持って来させ、それを破壊し、手紙を全員の前で朗読するつもりだな?
だからと言って何も持って行かない訳にもいかない。
家に帰り、壊されても良いがそこそこ大事そうに見える物はないかと私物を物色する。そして手に取ったのはヘッドフォン。
現役で使っているものだったのだが、接触が悪くなっていて音をちゃんと出すには差し込み付近の線をグルグルと回したりしなければならない代物だ。完全に壊されてしまえば、新しいヘッドフォンを買う良い切欠になるだろう。
後は手紙。
朗読されても恥ずかしくない内容にするか、朗読するのも恥ずかしいような文字を並べるか迷ったが、後者にした場合は廊下に張り出されるとかの対応をされるだけになるだろうと思い、前者にする事に決め、そうすると今度は何を書けば良いのか考え、思い出として残る上に朗読すらされない素晴らしいアイデアが浮かんだ。
絵を描こう。
こうして翌日、ヘッドフォンと絵を描いた便箋を持って登校した。
思った通りヘッドフォンは本体と線を分離させられ、ヘッドの部分はバキバキに折られ、分離された線はどう言う訳かハサミで切られたようにスパンとした切り口が3箇所に入ってしまった。
そんなゴミを笑いながら持った男子生徒は、
「今からコレ、タイムカプセルな」
と言って、教室の隅に置いてあるゴミ箱の中に放り投げ、絵を描いただけのツマラナイ便箋をビリッと破って、同じくゴミ箱の中に入れた。
そうだなぁ……次は手元に音量調節機能が付いたヘッドフォンにしようかな。




