卒業文集
小学生最後の遠足は、地元のスケートリンクでのスケートだった。
卒業まで後少しというタイミングで、最後の思い出作りにはもってこいの行事の筈だったのだろうが、俺は学校に残って真っ白な原稿用紙を前に鉛筆を握っていた。
朝まではスケートに行くんだと思っていたし、お弁当まで用意していたのだが、俺を含めた数名の生徒は担任により留守番をさせられる事になった。その理由は、卒業文集が書けていないから。
俺は確かに提出をした。しかしそれを担任が勝手に破棄してしまったのだ。
「書き直しなさい」
原稿用紙を渡され、何を書けば良いのだろうかと教室の中を見渡す。
ものの見事に贔屓されてない生徒しかいない。
最後の思い出作り、担任は鬱陶しい生徒を抜きにして思い出を作りたかったんだろう。そうでなければ、破棄したから留守番。なんて可笑しな事が起きる訳がない。
こう言う事が普通に行われるんだな、こう言う事が許されるんだな。
もう書ける文章なんてのは担任に対しての不信感しかない。
「中学に行くのが楽しみです。贔屓をしない担任に当たればそれだけで嬉しいです」
そんな事を書いた。
遠足から担任が戻って来るなり原稿用紙を提出すると、担任は「書き直し」と、俺の目の前で原稿を破って見せた。
仕方なく書き直した文章は、低学年の子供が「おとうさん」とか言う内容で書くような文章力の欠片もないような作文だったのだが、それはそのまま卒業文集に載った。




