画鋲(※)
放課後、その日俺は図工の授業で描いた絵を教室の後ろに貼っていた。
作業していたのは担任を含めて4人程だっただろうか。
上の方に絵を貼るには棚に上がらなければならず、俺は上履きを脱いで棚の上で作業していた。
棚の幅はランドセルが入るくらいだからそんなに足場は悪くないが、作業をしながらなので足元を確認している余裕はなく、少しばかり不安だった。
プチッ。
踵に痛いような、痒いような、そんな違和感。
下を向くと、驚愕の事実がズラリと並んで置かれていた。
絵を壁に貼るのに使用していたのは画鋲。それがズラリと足元に並べられているのだ。しかも、針の方を上にして。
踵を見ると根元までしっかりと刺さった画鋲が1本。
これだけ並べられているのに、よく1本で済んだものだ。
「ゴメン!木場君ゴメン……痛い?血ぃ出た?保健室行く?」
そして下から俺を見上げながら何度も何度も謝ってくる女子。どうやら悪気はなかったらしい。
画鋲を抜き取ると靴下にジンワリと血が滲み出てきたが、そんなに痛みはない。嫌な感じの痛痒さはあるが大した事はない。
「大丈夫」
そう言った後は、画鋲を踏まないようにすり足で作業をした。
作業が終わって帰宅しようと階段を下りていると、踊り場で声をかけられた。ソレはあの女子で、
「ホンマにゴメンな。コレ使って」
と、絆創膏を1枚くれた。それでもまだ謝ってくるから、どうにかして安心させようと俺は咄嗟に、
「大丈夫。俺、画鋲好きやから。画鋲人間やから」
と、可笑しな事を言った。
「アハハ、なにそれ」
女子はそう笑ってくれたから、これで解決したと思っていたのだが、それは少し違っていた。
翌日、登校した俺の上履きには画鋲が大量に突き刺さっていたのだ。
それに気が付かずに上履きを履いて数歩。
カシャンカシャンと妙な金属音がする自分の足音に気が付いて、微妙に足の裏がチクチクする事に気が付いて。パッと靴底を見て思わず笑ってしまった。
靴底にはビッシリと画鋲が刺さっていたのだから。
1本ずつ抜いて、大量の画鋲と共に教室に入ると、何人かの男子が楽しそうに新しい遊びを始めていた。
人差し指と中指で画鋲を挟むようにして持ち、それが壁に刺さるように真っ直ぐに投げていたのだ。壁にはダーツのような点数が書かれた紙も貼られていて、それを狙って画鋲を投げている。
いや、投げていたんだ。俺が教室に入るまでは。
「的が来たで」
誰かがそう言うと、また誰かが画鋲を思いっきり投げてきた。慌てて廊下に出て逃げるが、後ろから追いかけてくるのは俺よりも足の速い連中ばかり。そして後ろから飛んでくる画鋲。
捕まって。
立たされ。
1人の男子が画鋲を構える。
「好きなんやろ?画鋲人間さ~ん♪」




