募金活動
駅前で募金箱を持って立つ。と言う学校行事があった。
1人1箱持たされ、駅前の広場に並んで立って「募金お願いします」と通行人に声をかけなければならない。
駅前のデパート前には贔屓にされている生徒が並び、その他は階段の下にある電話ボックス横のあまり目立たない場所。
「募金お願いしまーす」
「しまーす」
声の大きな向こう側の生徒の周囲には、足を止める人も多くいて、小銭ではないお金を箱の中に入れてもらっていた。
それに引き換え俺達の周りには、足を止める人はいない。
「めっちゃ貯まってる~」
箱を振りながら喜んでいる向こう側、1円も入っていない箱を振る俺達。
「最後まで0円やったらハズイし、全員で10円ずつ入れよか」
俺達が小声で作戦会議をしている間、向こう側もなにやら小声で作戦会議を始め、1人の女子生徒を何人かの生徒が囲み、女子生徒は箱の中から小銭ではないお金を2枚取り出し、そのままポケットの中に納めてしまった。
俺達はしっかりとその光景を見ていたが、先生に言った所で何故か俺達が取ったように言われるだけなので、見ていない事にした。
「募金お願いしまーす」
「お願いしまーす」
それでも人は向こう側の生徒に募金をする。
「1人でもエエから、とりあえず募金してもらお」
こうして俺達は少し距離を開け、広範囲を攻める事になった。
「募金……お願いします……」
恥ずかしいので小声になってしまう俺の後ろでは、
「募金やってます!よろしくお願いします!」
と、妙にハキハキと言う男子生徒がいる。また少し離れた所には頭を下げつつ「お願いします」と言う女子生徒。あちら側の生徒にまぎれて並んで立っている奴もいたり。
徐々に俺達の所にも足を止めてくれる人が出て来て、何人かの箱の中には小銭が貯まった。しかし、俺の箱の中には、まだなにも入っていない。
このままじゃ終われない!終われないのに、募金活動時間は終わりに近付いていく。
このままじゃあ、箱を回収した担任に「募金も出来へんの?」と怒られるだけだ。
仕方ない。
俺はポケットから10円玉を取り出し、コッソリ箱の中に入れた。
「自分で入れたん?」
急に声をかけられて顔を上げると、スーツを着た男性が俺の前に立っていた。
「箱の中、空やったら怒られると思って……」
正直に言うと男性は鞄の中から財布を取り出すと、小銭入れに入っていたお金全てを箱の中に投函し始めたのだ。
嬉しいと言うより、怖い。
ズッシリとした箱を手に、何か悪い事をしたかのような罪悪感に襲われる。
とにかくこの重たい箱が怖い。
「お前どんだけ貯まった?」
「全然や~。お前は?」
「もっさ軽いで」
そんな会話が後ろから聞こえて来るとますます居心地が悪くなり、俺は振り返ると箱の中が軽い、と喋っていた2人に交渉をした。
「俺の箱と交換して」




