毛細血管へのダメージ
小学生の頃、ご近所さんには犬を飼っている人が多かった。
犬に対する恐怖心を克服できない俺にとっては、通学路でさえ恐怖だった。何故なら、何件かの犬は放し飼いにされていたからだ。
追いかけられたら、とりあえず大股で歩いて人の多い場所に向かって紛れる。人がいない時は俯いて、目を閉じて家に帰る。もちろん心の中では
犬の為にノーリード?ふざけんなよ飼い主!
とか叫びながら。
しかし、その日に追いかけてくる犬はいつまでも俺の後ろを着いて来た。
恐ろしくて振り返れなかったが、アスファルトの上を歩く犬の爪音がスグ後ろに聞こえるのだ。
大股で歩くと、後ろの足音がトトトッと駆け足で付いてくる。
あまりにも恐ろしくなり、俺は通りかかったマンションの階段を駆け上がった。そして更に数段上った所で振り返ると、階段の下で尻尾をゆっくりと振っている白い犬。
コイツは裏にあるアパートの、そのお隣さんが飼っている犬。
しかし階段までは登ってこないだろう、と安心したのも束の間、ピョンピョンと1段ずつ上がって来るではないか!
急いで踊り場まで上がるが、階段を登ってくる犬の爪音。
このままじゃあ1番上まで行った時に追い詰められておしまいだ。
どうする?どうしよう?
俺はパニックに陥りながら手すりに登った。後ろ足で立ち上がった犬は、俺の足を噛もうとしているのかジャンプしている。
怖い、怖い!
不安定な手すりの上、前には白い犬で、後ろには路地がある。しかし1.5階と言う高さがあった。
どっちにしたってタダでは済まない。だったら!
俺は路地に向かって飛び降りた。
両足でドーンと着地したと同時、ビリビリと電気が走った。そして両足に現れる鈍い痛み。酷くだるくて重い足を引きずり、犬が追って来ない間に家に向かった。
痛い、重い、だるい。なのに足全体はまだビリビリとしていて感覚が鈍い。
やっとの思いで家に辿り着きズボンの裾を捲りあげて言葉を失う。
両足の脛が、紫色に染まっていた。




