アカミミガメ
母が出て行き、猫を飼う事を激しく反対していた姉も母と一緒に出て行ったので、正直、飼えると思っていたが、姉よりも更に激しく猫を嫌っていた祖母が、帰宅した。
飼っても良い?と聞くまでもなく駄目である事は分かっていたので、無駄な抵抗はせずに大人しくペットは諦めたのだが……。
夏休みの事、近所の商店街で夜店があった。
弟と弟の友達数人を引き連れて夜店に出かけると、突如始まる金魚すくい大会。
今では亀すくいとかあるらしいが、この頃の夜店には生き物系は金魚すくいしかなく、金魚5匹で金魚1匹と交換。10匹で2匹、20匹で亀と交換。と、そんな感じだった。
俺は金魚が呼吸の為に大群で水面に顔を出しているあの光景に耐えられそうになかったので立ったまま弟達を見ていたのだが、いつまで経っても終わらない。
ポイの紙が強力だったのか、弟達の金魚すくいレベルが高かったのか、ボールの中は赤い金魚で埋め尽くされている。
こうしてお持ち帰りとなったミシシッピアカミミガメ1匹。
玄関に弟と2人並んで立ち、祖母を説得する事しばし、ちゃんと世話をするなら。とお許しが出た。
やった!と喜んだのも束の間、水槽がない。
貰って来た袋のまま飼うのは可愛そうなので、急遽2リットルのペットボトルを使って水槽を作る所から始めた。
カッターでペットボトルの上の方に切り込みを入れ、そこにハサミを捻じ込んで3センチ程切り出し、その小窓から亀をペットボトルの中に入れる。
後は軽く水を入れてペットボトルを斜め置きにして陸地も作り、脱走しないようにと小窓部分に当て布をして完成。
「名前どうする?」
弟が小さく千切ったキャベツの芯をカメにあげながら聞いてきた。
そうだ、ペットなのだから名前をつけなければならない。
「カメ助とか?」
「カメ太?」
名前に動物名が入っているのはあからさま過ぎる。と言う事で、だったら他の動物では定番となっているポチとかにしてはどうか?と言う意見も出たのだが、それはそれで違う気がした。
少し考えた俺は、不意にひらめく。
「アカミミガメのミミでどう?」
すると弟は更に、
「それやったらミシシッピのピピの方が変わってるやん」
と。
「じゃあ濁点にしてビビにしよか」
「うん!」
それからビビは、1年も木場家にはいなかった。




