無視して欲しい
ある日、俺は教室で泣いていた。
机に顔を伏して絶対に顔を見られないようにしていたが、俺の周りにいた3人の生徒は、確実に俺が泣いている事を知っていた。
「木場君、ゴメンな」
隣に座っている生徒Aがそう言いながら俺の背中をさすり、正面にいた生徒Bも、斜め前にいる生徒Cも、
「ゴメン」
と言うのだ。
俺は謝罪なんて求めていなかったし、出来る事ならそのまま放って置いて欲しかったのに。何故謝って来るのか理解が出来ない。
好きに4人組つくってーと言う拷問ではなく、席順に決められた4人で何か調べて発表しましょう、とか言う授業の最中での事だった。
何を調べるのかと話し合いを始めてスグ、ヒントを探す為社会の教科書を眺めていた俺に、隣にいた生徒Aが顔を近付けてきて何気なく声を発したのだ。
「ちゃんと見える?」
え?と生徒Aを見ると、
「眼鏡してるんアレから見てへんけど、買ってへんの?」
と、今度は正面の生徒B。
「度の入ったレンズやと結構するのにな」
と、隣の生徒A。
すると斜め向かいの生徒Cが、自分のかけている眼鏡を外して見せ、
「コレ、3万位やったで」
と、ニカリと笑った。
俺の記憶違いじゃなかったんだ!
「席替えあったら、前の方にしてもらいや?」
「ウチらが言うてもアカンのんちゃう?」
「俺ら全員で言おうや」
俺の席1つで、何を真剣に話し合いをしてるんだろう?それ以前に、俺の目が悪い事を何故皆知っているのだろう。
今まで通り無視で良いから。
黒板が見えなくても授業をする担任の声は聞こえているし、教科書も見えているから授業内容は追えているから。
だから、無視して欲しい。
「怒ってる?」
不意にかけられた言葉に混乱しつつ首を振ると、
「良かった」
と笑顔を向けられて。
たったこれだけの事で、胸の奥の方からギューっと何かが込み上げて来て、その苦しさで目から液体が滲み出してきたのだ。




