折れた眼鏡
小学校3年の時に作った眼鏡は、小学6年生にもなるとかなり小さく感じた。
実際、かなり小さくてフレームが米神に食い込んで痛んでいたほど。
だから、目は良く見えていないけど、痛いので眼鏡を外している時間が増えた。初めは家にいる間は外しているだけ、そのうち授業中だけ、黒板の文字が見えない時だけ。
そんなある時、外していた眼鏡を落としてしまい、そこへ丁度通りかかったクラスメートに、たまたま偶然踏み付けられてしまった。
グニャリと曲がった眼鏡。
ソッと拾い上げて見ると、レンズは割れてはいなかった。
曲がってしまったフレームをゆっくりと元に戻せば大丈夫……ソッと、ソッと力を加えて慎重に戻そうとしたのだが、
ポキッ。
丁番の辺りでポッキリと折れてしまった。
「眼鏡なんか千円位で売ってるのに、大袈裟やし」
そう言って眼鏡を踏んだ女子は笑い、周りのクラスメート達も笑い声で同意しているが、その眼鏡は5万円だった。
だけど、こんなにクラスの皆が“眼鏡は安い”とか言って笑っているのだから、5万円は可笑しいのだろうか?と思った俺は、とりあえず、
「1万以上しました」
と告げた。
また大笑いするクラスメート達。
「そんなにする訳ないやん、嘘吐き」
「嘘吐き」
5万円したと言うのは、俺の記憶違いだったのだろうか?本当は数千円の眼鏡を5万円で売り付けられたのか?
自分の記憶に自信が持てなくなった俺は、無言で折れた眼鏡をポケットに入れた。
親父が帰宅する時間、俺はダイニングにいて、折れた眼鏡をテーブルの上に置いて“眼鏡を壊してしまった”と告げてから、
「もう小さくなってたから、新しいのが欲しい」
と、希望と伝えた。
「新しいのが欲しいからワザと壊したんか?」
あぁ、面倒臭い。
「違う」
「お前はどうせそんな奴や」
「違う」
親父は自分が思った事しか信じない性格なので、当然俺の“違う”と言う言葉もただの言い訳にしか感じ取れなかったのだろう。
「SIN、これ何本に見える?」
そう言って1歩後ろに下がった親父は人差し指を1本立てて見せた。
急に何を始めたのだろうか?と疑問に思いつつ、
「1本?」
と答えると、今度は右手で人差し指を立て、左手でピースしてきた。
「これは?」
これは、何だろう?何かの遊びだろうか?
色々考えながら、
「3本」
と答えると、親父はニコリと笑いながら、
「見えてる見えてる」
そう言って眼鏡の話題を終わらせた。




