タバコ
俺の両親はかなり変わっていた。
食卓を囲まない事だって可笑しいのだろうし、なにより酒とタバコに関する規制がほぼなかった。
なので俺達3兄弟はそれぞれ小学生の頃には既にチューハイやビール、焼酎などをたしなんでいた。
両親が俺達に言った事はたった1つだけ、
「酒もタバコも隠れてやるな。やるなら俺らの前でやれ」
だ。
今なら警察沙汰になっている事だろう。
それでも俺がタバコを始めた切欠は両親からの勧めがあったからではない。
3兄弟のうちでタバコにまで手を伸ばしていたのは姉だけで、俺と弟は吸っていなかった。
母と姉が出て行き、祖母が帰ってきた後の事。
俺はダイニング横の部屋を使っているので1階にいるのが普通で、祖母もダイニングにいる事が多かった。そんな祖母はヘビースモーカー。
2階でテレビを見ていたかと思えば1階に下りてきて一服、珈琲を飲んでからの一服。
そんなある日の事、どう言う流れでそんな話になったのかは忘れてしまったが、タバコの話になった。祖母は2階では1本も吸っていないと自慢げに言い、その理由を俺に当てさせようとした。
「寝タバコせんように?」
1番それらしい答えを言ったつもりだが、答えは違っていた。
「ケンはタバコ吸わんやろ?煙行ったら可愛そうやろ?やから2階では吸わんのや」
どうや、偉いやろ。と言わんばかりの笑顔でそう言われてしまえば、俺に言える事など何もない。
声に出せない代わりに心でつぶやく。
俺も吸ってませんけど。そして煙いのを我慢してるんですけど。
「へぇ、凄いなぁ」
「そやろ」
和やかに会話を終わらせ、親父が買い溜めしているタバコを取りに2階に向かい、祖母が守っている2階では吸わない、と言うのを豪快にぶち壊す為に親父と弟の部屋の中でタバコに火をつけた。
「ゴホッ!ゲホッ!」
初めて吸ったタバコは目にしみた。




