最後の家庭訪問
姉は才色兼備だったが、朝に弱かった。
弟は算数は飛び抜けて得意だったが、漢字が苦手だった。
そして俺は姉よりも朝に弱く、弟よりも漢字が出来なかった。
小学校6年、最後の年と言う事で家庭訪問をすると学校から連絡があり、会社を休めない親父に代わって担任の相手をする事になったのは祖母ではなく別居中の母だった。
俺の家庭訪問のためだけに戻ってきた母は、弟の漢字ドリルを徐にランドセルから出すと俺と弟の前に白い紙を置いた。
「今から言うものを漢字で書け」
3つ下の弟の漢字ドリルは当然俺が既に習った筈の漢字で、本当ならば100点を取って当たり前の抜き打ちテストの筈だった。
しかしその結果は、弟の方がよく出来ていた。
嫌な間が続く中、チャイムが鳴って担任が来ると、弟はサッと2階に上がり、母もさっきまでの表情を改めて笑顔で話をし始めた。
勉強駄目、運動駄目、積極性なし、協調性もなし。
担任の俺に対する評価は散々だった。それに便乗した母は、たった今やったばかりの漢字テストの紙を見せながら、かなり直接的に弟は頭が良いんですよと謎のアピールを始めた。すると紙を見ていた担任はより多く×の付いている紙を見ながら、
「こっちがこの子の答えですか?」
と。
馬鹿にしたような目で薄笑いを浮かべる担任に対し、母は、
「そうなんですよ、3年生の漢字ドリルから問題を出したんですよ?」
と、笑いながら答えた。
本当の事だし、漢字が分からなかったのも事実なので何も言えずに黙るしかない。
「本当に何も出来ないんですねぇ。この子はまた1年生からやり直した方が良いんじゃないですか?」
そう毒を吐く担任と、
「本当ですねぇ」
と、大笑いする母。
俺は何も出来ない自分が悪いんだと思いながら、どうしたって2人に言いたい事があり、一応手を上げてから発言した。
「来年から中学1年生ですよ」




