兄弟会議
母が新居となるマンションを見付けてから最終的な事を俺に聞いてきた。
「部屋は2つでキッチンがある所やねんけどな、お前はどうするんや?」
もう完全に来るなと言いたいのだろうが、一応俺に選ばせる形を取りたかったのだろう。そして俺も母について行く気は更々なかったのだが、ちゃんと理由があって親父を選んだという見栄を張りたかった。
母に来るなと遠回しに言われたから親父の所に残った、なんて思われたくなかったのだ。
そして俺はこんな例えをした。
「犬は人に、猫は土地に付くらしい。俺は、猫」
いるかいらんかジャンケンみたいに俺を弾き続けていた両親に付くのは、プライドが許さなかった。だから家に付く事にしたのだ。
「オカン出てくって、どう思う?」
2階に逃げた俺に声をかけてきた弟。
「どうも思ってへんねやろ?」
散々その事について弟とは話し合っていた。だから今更そう聞いてくるのが不思議だったのだが、もしかしたら俺の例え話が聞こえていたのかも知れない。
「親が俺ら捨てて出て行くのになんとも思わんのって、人としてなんか抜けてるからなんかな?」
小学2年にも関わらず、弟は深刻に考え込んでしまっているようだった。
このまま弟の質問を適当に茶化しては駄目だと思った俺は、さっきの例え話を考えるよりも真剣に悩んで答えた。
「別居するって決まってから結構時間経ってるやろ?」
「うん」
「やから慣れただけ。そんでお前は初めから親父に付くって決まってたしな」
弟はこれで納得してくれたのだが、この答えで良かったのかどうかは未だに分からない。ただ、母に対して言った見栄は間違っていたらしく、
「お前は薄情な奴や、人間じゃないわ」
と、言われてしまった。




