お楽しみ会
お楽しみ会と言う授業があった。
くじによる公平な班分けをして、その班で出し物を決めて発表するのだ。
ある時、奇跡的に俺の班は贔屓をされていない生徒ばかりの5人になった。
いつもは贔屓されている生徒だけで話しを進め、劇などの場合は主役から決まっていく。だから蚊帳の外の俺には小道具製作か、一言二言程度の台詞しかない配役が回ってくるだけなのだが、贔屓されない生徒だけの場合……。
「何にする?」
「どうする?」
贔屓にされている生徒のいる班では小道具作成が始まるような頃になっても、俺達の班は演目すら決まっていなかったのだ。
「時代劇しよ」
1人の男子が意見を出すと、隣にいた男子が、
「お代官様も相当悪よのぅ」
と。
するとまたその隣にいた女子が、物凄く恥ずかしそうに小声で、
「アーレー」
「いや、その前に良いではないか良いではないか。やろ」
変な寸劇が始まって、終わった訳だが、これで皆の意見は「時代劇」で決まっていた。誰が脚本を書くとかではなく、全員で意見を出し合うでもなく、ただその場のノリだけで話の流れが決まる。
「悪代官が町娘を誘拐して、主人公が助けに行く感じな」
「主人公、悪代官と、町娘と、悪代官の手先と、ナレーター。ピッタリ5人や」
ノリに乗っている会話はその後も続き、台詞の大半もそれで決まった。後は戦いの場面で長さの調節をして10分程の劇にすれば良いだけだったので、準備はトントン拍子に進んだのだった。
しかし、お楽しみ会当日の朝、大きな問題が発生した。
主人公役の生徒が、病欠したのだ。
お楽しみ会は5.6時間目にあるから、それまでに主人公の代役を決めなければならない。
誰が主人公をやるのか、それは台詞も動きもそんなにない「悪代官の手先」しか適任者がいない。つまり、それは、俺。
授業中にも台本を眺めて主人公の台詞を覚え、休み時間には動きの確認。こうして向かえた本番。
「娘さんを離すんだ!」
「わっはっは、それなら私を倒してみろ!」
新聞紙を丸めただけの剣を振り回して戦い、
「うわぁぁ」
悪代官が倒れ、
「ありがとうございました。貴方の名前は?」
町娘がベタな台詞を言って、
「名乗る程の者ではありません。それでは」
と、主人公がまたベタな台詞を言って立ち去り、廊下へ出る。
これで、終わり。
緊張はしたけど台詞も飛ばなかったし、練習の時よりも出来はかなり良かったと言うのに、教室の中からは拍手ではなく、
「もう終わり?」
「意味分からんかったから、初めから説明して」
「え?なんかやってたん?」
言いたい放題の贔屓されている側の生徒。そしてそれを止めない担任。俯いて聞く事しか出来ない同じ班の生徒。
あまりにも酷いので、町娘役をしていた女子が廊下に出てきて泣いた。するとナレーター役の女子と悪代官役の男子も廊下に出てきて、続くように出てきたのは贔屓にされている女子が2人。
「コレ邪魔やから捨てといて」
廊下に投げ出されたのは俺達が劇で使った新聞紙を丸めて作った剣と、台詞が飛んでしまった時用に用意していた台詞を書き込んだ画用紙数枚。
「今から劇を始めます」
教室の中から聞こえてきたのは、俺達の次の班が劇を始めた声。
こんな扱いには慣れてしまっている俺達は、そそくさと新聞紙と画用紙を片付け、泣いている女子を囲むようにして廊下に座る。
「帰ろっか」
と、悪代官が言い、
「怒られるやろ」
と、ナレーターが言う。
「バレたら説教と反省文やな」
と、主人公が言えば、
「泣き止むからちょっと待って」
と、町娘が鼻を啜った。




