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音楽会
小学5年生の音楽会。
演目は鶴の恩返しで、曲と曲の間に若者と鶴の会話が入る。その台詞は生徒と同じ箇所だけあった。
1人1台詞。
どんな歌詞だったのか、どんな曲調だったのかは全く覚えていないが、その台詞を決める為の学級会議の事は鮮明に覚えている。
あがり症の俺はとにかく短い言葉を選んで積極的に挙手をした。
「この台詞言いたい人~」
そう担任が言って、言いたい生徒が挙手をする。複数いた場合はジャンケン。そんな感じの決め方だった。
短い台詞が一通り決まってしまい、ジャンケンに負け続けた俺は文字数のみで台詞を選んだ。
その台詞がどんな意味なのか、そんな事など関係なく、ただ只管に短い言葉を。
文字数で選んだ台詞は、若い娘に変身した後の鶴の台詞だった。
あがり症で、恥ずかしくないようにと短い言葉を選んだ筈が、俺はこの曲の中で1番恥ずかしいだろう台詞を選んでしまっていた。
「私を嫁にしてください」




