表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHORTで、俺。  作者: SIN
小学校 高学年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/485

大のおかず

 その日俺は給食当番で、小のおかずを小鉢によそっていた。

 普通なら、給食当番の生徒の給食は当番ではない生徒が用意してくれるのだが、仕事が終わって自分の机に戻ると、そこには何も置かれていなかった。

 初めてと言う訳ではなかったので、特にショックにも感じず自分でおかずを取りに行く事にした。

 お盆を取って、自分が担当した小のおかずの入った小鉢をお盆に乗せて、パン、牛乳、そして大のおかず……の筈が、大のおかずが残っていない。大のおかずがないだけではなくて、大のおかず用の食器すら残っていない。

 今日はおかず抜きか。

 こうして給食を食べ始めたのだが、担任が俺のお盆の上に大のおかずがない事に気が付いた。

 「なんでないの!?」

 何故少しキレ気味に言うのかは分からないが、ないものはしょうがないので返事もせずに黙っていた。すると担任は「いただきます」と言ってから少し経った後にもかかわらず、

 「大のおかずちょっとずつ分けてあげて」

 と、クラス全員に向かって声をかけた。

 明らかに皆食べている最中である。

 人の唾液入りのおかずなど、例え豪華な食品だろうともいらない。それなのに担任は皆から本当に少しずつ大のおかずを回収していく。そして言うのだ、

 「ほら、皆分けてくれてるんやから、お礼言いなさい」

 理不尽だ、可笑しい。そう思いつつ「言え」と怒られては言うしかない。

 「……ありがと……」

 1人1人に言った後は、前に立たされて全員に向かって言わされた。しかし、ここからがまた問題で、食器がないのだ。

 バシッ!

 何故か俺が叩かれる。

 「食器ないやないの!」

 そんなの、全員からおかずを回収する前に確認しろよ。とは思ったが、反抗する気力は残念な事に残ってはいない。それに、少し期待もしていた。

 食器がないから、集めたおかずを食べなくても良いんじゃないか……。

 しかし、そうはならなかった。担任が俺の手を引き、強引に給食室まで連れて行ったのだ。

 道中、色々考えた。

 今すぐに給食室に残っている食器が全て割れないだろうか?

 給食室にも大のおかずの食器がなかったら良いのに。

 このまま手を振り払って帰ろうかな?

 食べたくない、

 心底いらない。

 食事なんかいらない。

 給食なんか嫌いだ、そもそも食器をちゃんと入れていなかった給食室の人が悪いんじゃないか!

 俺の分の給食を用意してくれなかったクラスメートのせいじゃないか!

 いただきます、の前に気が付かなかった担任のせいじゃないか!

 「ホラ、ちゃんと言いなさい!」

 給食室に着き、給食室のおばちゃんの前にドンと突き出される。

 「どしたん?」

 給食室のおばちゃんの声は、優しげだった。

 「はよ言い!」

 と、担任はまた怒る。

 俺は、食器を出さないで欲しい、との思いを込めた目で給食室のおばちゃんを見つめながら、

 「大のおかずの食器が、1つ……足りませんでした」

 と、時間をかけて言った。

 お願いだ、出さないで欲しい。出されるとアレを食べる羽目になるんだ。だから、お願いだから「食器はない」って言って欲しい。

 「そうなん?ゴメンねぇ」

 給食室のおばちゃんは笑顔で奥に向かっていき、大のおかずの食器を手に戻ってきた。

 受け取ったその食器の中には、温かいおかずも入っている。

 「おかずは良いですよ」

 担任はそう言って手を振るが、俺は受け取った食器を守るように両手に持つ。

 「良いから、持って行き」

 担任にではなく、俺にそう言って笑顔を向けてくれる給食のおばちゃん。

 「ありがとうございます……」

 ペコリと頭を下げてから戻った教室では、クラスメートが給食も食べずに担任の帰りを待っていた。それを見た担任は俺の背中を強めに突きながら、

 「あんたのせいで皆待ってくれてたんやで?何て言わなアカンの?」

 と、また謝らせようとしてきた。

 確かに、皆待ってくれていたのだからお礼とか、謝罪とか、そう言った言葉は必要だったのかも知れない。だけど、俺はこの日謝り過ぎていた為に感覚が麻痺していたのだろう、どうしてもこれ以上コイツらに頭を下げたくないと思ってしまったのだ。

 だから、

 「手を合わせてください。いただきます」

 と、いただきますの挨拶をしておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ