林間学習 初日の就寝
林間学習は、お寺で宿泊だった。
部屋は、かなり広い広間に1組と2組全員での雑魚寝。
消灯時間が来て電気が消されると真っ暗で、トイレに行く事すら困難な闇が広がる。それなのにひしめき合っての雑魚寝である。
電気消すぞー、と1組の担任の男性教師が大きな声で言ってパッと消える明かり。
朝まで起きている事は出来るだろうか?と布団の中で腕を思いっきり抓る。
イビキや寝言、寝相。それを気にしているから寝られない訳じゃないし、枕が変わったら寝られないと言う訳でもなく、起きていなければならない理由があった。
雑魚寝の場所は好きに決めて良かったので、俺は1組の生徒に紛れ込んだ場所を取ったのだが、何処に2組の生徒がいるか分からないので寝る事が出来ないのだ。
アイツらがいる中で完全に意識を失う訳にはいかないのだ。
何をされるか分からない。なにが起こるか分からない。俺の荷物が捨てられるかも知れない。服が、靴が……。
絶対に寝ない。寝たらおしまいだ。
思いっきり腕を抓り、その痛みに慣れて来ると今度は爪を立てて腕を引っかく。
両腕がヒリヒリとしてきた時、誰かが布団から出る気配がした。
トイレか?それとも2組の奴か?
何者かはトイレのある出口ではなく、部屋の中を歩き回り始め……。
俺を探しているのか?こんな真っ暗な中?こんな夜中に?
物凄い執念に怖くなり、俺は頭まですっぽりと布団を被った。眠気なんてものは恐怖で吹き飛んでいる。
ススス。
畳の上を歩く音がすぐ傍まで来ている。布団越しに俺を見ているのか、気配がスグそこにある。
しまった、着替えを枕元に置いている。俺だと気付かれたら確実に着替えは枕元から消えてしまう。そうなれば残りの日数パジャマでいなければならない。
気付かれないように着替えを布団の中に引き入れる?けど、気配は目の前にある。少しでも動くと気付かれてしまう。
怖い、どうしよう、怖い。
「ん……お前、何やってん。はよ寝ろや」
俺の隣で寝ていた1組の生徒は、不審人物にかなり機嫌悪そうに声をかけた。きっと物凄く眠たかったのだろう。
「あ。うん。トイレ行くだけ……」
思ったよりも遠くから聞こえた声は、2組の生徒のものだった。
「出口向こうやろ、寝惚けておねしょとか止めろや?」
また機嫌悪そうな1組生徒が言うと、アチコチからクスクスと笑い声。
なんだ、皆まだ起きていたのか……。
「そんなんせぇ~へんわ!」
2組生徒はそう言うと、トイレに行くと言ったくせに自分の布団に戻った。
これで少しの間は大丈夫だろう。
俺は急いで着替えを布団の下に隠した。




