未遂(※)
教科書に落書き、給食に消しゴムのカス、体操服を濡らされる、ゴミを投げられる、水をかけられる、黒板消しを投げられる。
髪を切られ、画鋲を踏まされ、教室の窓で指を挟まれ。
1つ1つは実にくだらない事だと言うのに、それが束になるとどうしようもない絶望に支配される精神。
自分なんかいなくても良いのではないか?
このまま大人しく消えてしまうのは悔しいが、クラスの連中に仕返しが出来る策も、力も、なにもない。
そうだ。
担任とクラスメートの悪行の数々を手紙に残せば良いんじゃないか。
消えてしまう事の意味を見出せた俺は、その日から千羽鶴を折り始める。
折り紙を買うのがもったいなかったので、広告や使い終わったノートを正方形に切って使った。
指先が紙で切れて血が出ようとも、無心になって来る日も来る日も鶴を折る。その間も延々と嫌がらせは続いているが、手紙に書く項目が増えるだけと考え直せば、不思議と耐える事が出来た。
アホ面下げてられんのも今のうちだ、お前ら全員人間のくずだ。
生きる価値がないのは俺か?それともお前らか?
どうでも良い、なんでも良い。
こうして折りあげた鶴は999匹。
最後の1匹となる紙の裏に、ビッシリと書き込むつもりで大きな紙を用意したのに、鉛筆を持った手が動かない。
書くべき言葉が思い浮かばなかったのだ。
何をどう思って鶴を折っていたのかも。
それでも、消える為だと言うのは確かだったので、俺は色々書こうと思っていた紙にただ「いしょ」とひらがなで書いてから千羽鶴を仕上げて家を出た。
最後の場所は決めていた。
最寄り駅を線路沿いに歩くと歩道橋があり、その歩道橋の右手にはスグ線路があって、左側には道路。丁度坂になっている真上に歩道橋があるので、通常よりも大分高い位置から飛び降りる事が出来る。
どっちを選んでも生き残る確立は少ない。
さて、どっちにする?
車道側にしよう。
落ちた俺は何台もの車に轢かれる事になるだろう。その車を運転しているのが、クラスメートの身内だったら……?こんなに楽しそうな事はない。
「ハハッ!」
欄干の上にヨイショと乗り、歩道橋脇の民家をチラリと確認する。
気分は高揚していたから、本当ならその勢いのまま飛び降りたかったのに、歩道橋の横に建っている民家では、1人のご婦人による洗濯物取り込み作業が行われている真っ最中。
下から不審そうに見上げられては何も出来ず、俺は景色を楽しんでいるだけですよ。といった小芝居を始めた。
少し経ってから洗濯物の取り込み作業に戻ったご婦人は、全てを取り込み終えた後、あろう事か、夕方の、もうスグ完全に太陽が沈むという時間に日光浴を始めたのだ。
そのあまりの衝撃に飛び降りると言う勢いは消し飛んでしまい、俺は強烈な気まずさを誤魔化す為、誰も聞いていないのに鼻歌を歌いながら欄干からゆっくりと下りた。




