家庭害虫
ダラダラと過ごす事が日常化となってしまった夏休みの朝、蒸し暑さをどうにか誤魔化しながら2度寝をしようとしていた。
かれこれ1時間は粘っているが、昼が近付くにつれて部屋の温度は上昇。とてもじゃないが眠れそうにない。
仕方ない、起きよう。
バンッ!
パーン!
バシン!
何の音だ?
1階から聞こえてきた音に起き上がり、ノソノソ階段を下りて行くと、ダイニングには分厚い黄色の電話帳を両手に持った姉が、恍惚の表情を浮かべて立っていた。
「なにしてんの?」
俺が聞くよりも先に弟の声がした。どうやらトイレにいたらしい。
「来て」
姉は手招きして俺達を呼びつけると、得意げに足元を指差した。
そこには押し花のようにペランと押し潰されたかなり大きめの虫が1匹倒れていた。
あの騒音は虫に攻撃を繰り出している音だった訳か。そして家庭害虫を退治出来た事に恍惚の表情を浮かべていた……怖ぇーわ!
「コイツ、好きで虫に生まれた訳じゃないかも知らんのに、可哀想や」
虫が出るだけで大騒ぎをする弟からの言葉に俺達は驚く。しかし、良く思い返してみると、確かに弟は蚊以外の虫を無闇に倒してはいない。
うわぁ~~~と叫びながら窓を全開にして虫が外に行くのを待ったりしている。
「放っといたら大量発生するんやで」
と、姉は、家庭害虫は見たら退治すべきだ。と主張し、2人は討論会を開始させた。
仕方ない。
俺はテーブルの上に置いてあったボックステッシュを3枚程取り、2人の足元で忘れ去られてしまった家庭害虫の処理をした。




