内緒やで
田舎から大阪に帰る道中。
俺は乗り物酔いが酷いので、喋ったり、歌ったりしてどうにか気分を紛らわせていたが、車で5時間程の移動ともなると、誤魔化しに限界が来る。
「……うぅ……」
もう駄目だとシートを倒して目を閉じると、隣にいた姉が酔い止めになるからとカリカリ梅を口の中に入れてきたので、それをアメのように舐めながら眠りに落ちた。
眩しいな……。
そう不快に感じて目を覚ますと、車は止まっていた。
何処かのパーキングエリアで休憩しているのだろうか?と起き上がって車の中を見渡してみると、誰もいない。
全ての窓が少し開いてはいるが、エアコンが切れているので車内は結構な暑さになっていた。
窓の外に見えるのは、魚介類の飾りがドンと付いている看板。
パーキングエリアではなく、お店の駐車場だった。しかも、魚介類を提供しているお店。
時間は1時過ぎだったので、きっと皆は昼食をとりに行ったのだろう。
俺は乗り物酔いが酷いから、家に着くまでは何も食べられない。
食べた所で酔いが酷くなるだけだから、飲み物位しか口に出来ない。
そんな俺が寝ている間に、魚介類が好きな親父達が、魚介類を食べに行った。
暑いから外に出たいが、窓が開いている車を無人にするのは無用心だろうし、俺が起きて待っていたら皆気まずい思いをするかも知れない。
家族で外食なんて滅多にしないのに、そんな思いをさせたら駄目な気がする。
そう思ったので、寝た振りをする事にした。そして気が付いたのは、口の中にカリカリ梅が入ったままになっている事。
カリッ、カリッ。
「暑……」
根を上げそうになる事数回、時計を確認する事数回。大量に出る汗のせいで暑いのか寒いのか分からなくなっても寝た振りを続け、本当にウツラウツラとしてきた頃にガチャリとドアの開く音がした。
エンジンがかかり、エアコンのスイッチを入れる親父は外で待っている皆に声をかける。
「中暑いから、まだ入るな」
そう言って自分も出て行った。
少し涼しく感じられるようになって来る頃に親父が乗り込んで来て、シートベルトをしながら皆に乗るようにと指示を出した。
ガチャと言う音と共に入って来たのは姉と弟。最後に助手席のドアが開いて、
「内緒やで」
と、小さな声が聞こえた。




