ヘビ
盆には母の実家に行く事が恒例だった。
かなり山奥にあるそこは、隣の家に行くのにも車で10分かかかるほどの田舎で、汲み取り式トイレと五右衛門風呂で、しかも家の外にトイレと風呂があり、トイレには電気すらない。
なので俺は田舎にいる間あまりトイレには行かないように気を付け、買い物の為に山を降りたスーパーのトイレで出せる分は出し切っていた。
しかし、小の方はどうしようもないのでコッソリ物陰に隠れて小便小僧と化していた。弟と、2人で。
夕方になり、少し辺りが薄暗くなってきた頃弟が俺の所に走ってきた。
「自然界バージョン行きたいっ!」
どうやらギリギリまでトイレを我慢していたようだ。
トイレに行きたいと言ってしまえば母や親父に連れて行かれる。もちろん行き先はあのトイレ。嘘みたいに大きなハエやら見た事もない虫が飛び交うあのトイレだ。
「景色見に行って来る~」
と母に声をかけ、ギリギリな弟の手を引っ張って少し山道を登り、道から外れた木の陰でジョロロ。
2人してスッキリした時、ピョコンピョコンではなく、物凄い全力疾走のカエルが横から出てくると、わき目もふらず道に出て、反対方向へと消えてしまった。そしてそれを追うようにシュルルルと現れた蛇が1匹。
蛇はカエルを追う事はせずに俺達を警戒しているのか、ジッと動かなくなった。
縞模様っぽい柄でオレンジ色っぽいそのヘビは、ジワリジワリと顔を俺達の方に向けると、微妙にジリジリと近付いてくる。
「そろそろ帰るで」
枝を拾い、それでヘビを突こうとしていた弟の手を掴んで走って家に戻った。
「さっき上でな、綺麗なヘビがおってんで」
家に戻ると弟は早速さっきのヘビの話を母にしたのだが、それを聞いた母の様子が可笑しい。
「噛まれてへんか!?何処で見たんや!?どんなヘビや!?」
怒鳴るような声にただ事じゃないと察知したのか、田舎のバァちゃんもやってくる。
「始めはカエル追いかけててん」
説明する弟だが、残念な事に肝心のヘビの特徴の説明が一切省略されていたのだった。




