表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHORTで、俺。  作者: SIN
小学校 高学年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/485

滑り止めを踏む音

 小学5年になって少し経った頃だっただろうか、朝の掃除の後、用具の片付けに手間どって遅刻しそうになっていた。

 どうして掃除用具の片付けを一任させられたのだろうかと考えながら、4人分のホウキを持って運動場をトボトボと歩く。

 掃除道具を片付ける場所が運動場の端にある小屋だと途中で気が付いて引き返した事で更に時間がかかり、上履きに履き替える頃には朝のホームルーム開始のチャイムが鳴っていた。

 下足室から教室に向かうのに最短時間で行ける階段。

 ここの2階と3階の間には、七不思議となっている鏡がある。でも遠回りしている余裕もない。

 どうしようか?と考えてる時間がもったいない、一気に駆け上がってしまえば鏡なんて気にならない。いや、気にしない!

 「はぁ」

 1度大きく息を吐き、ドンと胸を叩いて気合を入れて階段に足をかけた。

 思い切って足を出してしまえば、遅刻しそうだという焦りが薄暗い廊下と階段と言う不気味な環境を打ち負かし、足を前に前に出させる。

 タッタッタッタ。カン、カン、カン。

 ホームルームが始まっているせいだからなのか、辺りは異常に静かで、階段の滑り止め部分を踏むカン、カンと言う音が廊下に響いている。

 タッタッタッ……。カン、カン……。

 立ち止まると足音もしなくなり、後に残るのはホームルーム中だというのに先生の声すら聞こえてこない静寂。

 急いでいるのに足音がしないようにゆっくり2階まで上がり、背中をピタリと壁に当ててから1階との間にある踊り場を見下ろすが、誰もいない。

 可笑しい、確かにこの階段は出来るだけ避けて来たけど、利用した事がない訳じゃない。なのに、1人きりだと言うだけでどうしてこんなにも嫌な感じなのだろう。

 もうとっくにホームルームは始まっているんだし、今更急いだって遅刻は遅刻。だったらもういつも通り遠回りして教室に行こうかな。

 他の階段で教室に。そう決まってしまうと数秒前まではあれだけ怖かった階段がなんともなくなり、俺は安堵感から3階に続く階段を見上げた。

 「え……?」

 踊り場にある筈の壁と鏡はなく、代わりにあるのは奥へと続く階段。

 え? なに? え? なんで階段? え?

 あまりの不思議さに恐怖感はなく、好奇心に突き動かされるように階段をゆっくりと上がり始めていた。

 ゆっくりと、身を低くして階段を1段ずつ。

 徐々に見えて来る踊り場には、巨大な鏡。奥に階段が続いていた訳じゃなく、正面にある階段が映り込んでいただけという答えが目の前に広がっている。

 違和感は消える所か、深さを増した。

 鏡を覆っていた化粧板がない。

 鏡には緑色の縁取りがあり、少し剥げてしまったのか茶色の汚れ、上の方には何か緑色で文字が書かれている。

 なんて書いてあるのかを確認する為に目を凝らしていると、

 階段の滑り止めを勢い良く踏んだパァーンとも、カァーンともつかない音が真後ろで1回。

 俺はまだ足を踏み出していないのに、音だけがした。音だけが、後ろにいる、後ろに。

 背後から感じる視線に、背中を壁に付けてしゃがみ込みながら、キューっと締め付けられるように痛む胸を押さえる。

 この場所に立っている事、化粧板のない鏡、そして真後ろで鳴った音、その全てが怖い。

 辺りに響くのは浅く素早い呼吸音だけ。またなにか音がしたら? 聞きたくないのに耳は何かの音を捉えようとしているのか、ちょっとした物音ですら捕らえる。

 ドクン、ドクン。

 大丈夫、大丈夫。

 心霊現象なんてある訳ないんだ、あの鏡だって普通に化粧板の撤去工事があったのかも知れない。

 そうだ、きっとそうなんだ。

 背中を壁に付けたまま、今度は1段ずつ階段を下りる。そして2階に着いた瞬間、遠回りをして自分の教室に向かって走っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ