文字を書く
小説を書くまではいかないが、俺は子供の頃から何かしら文章を書く事が好きだった。だからと言って毎日日記をつけていたと言う訳ではなく、日記は気が向いた時にしか書かなかったし、ほとんどが絵と言う残念なラクガキ。
中でも好きだったのは家族新聞作り。
画用紙に2枚、月に1度作って壁に貼っていた。しかもその画用紙に直接文字を書くのではなく、話題毎に記事を書いた折り紙やラクガキ帳を画用紙内に収まるように貼り付けると言う中々の頭の良さ!
古い記事は剥がし、新しい記事を貼り付ける。
読んでいるのは弟くらいだったのだろうが、ある時母から注意を受けた。
「お前は人の粗探しが好きやな」
と。
まさか面白半分で書いていた家族新聞で母に怒られるとは思っていなかったので、怖くなって家族新聞はその日のうちに剥がした。
なにも書けない鬱憤は学校の作文へと向き、ある時学校新聞だったか、学級だったか、学校のしおりだったかに俺の作文が載る事になった。
とは言っても先生に書きなさいと言われてから原稿を用意したので、俺の作文が跳び抜けて優れていたとかではないのだが。
それでも選ばれた事が嬉しかったので、家に帰るなり原稿を手に母の元に向かった。学校の何か大事なモノに自分の作文が載るんだぜ☆とは流石に恥ずかしくて言えなかったので、俺は少しばかり情報を小出しにする事にした。
「これ、宿題の作文。読んでみて」
母は、はいはいと返事はするもののこっちを見ないし原稿を受け取ってもくれないので、俺はその後何度か読んでくれるようにと催促をした。
「読むから、そこ置いとき!」
そうやって一括されたので、化粧台の上に原稿を開いた状態で置いた。
その原稿は翌日先生に提出予定だったので、すぐにでも読んでもらいたかった俺は親父と母の晩酌が始まっても化粧台周辺に座り、いつ読んでくれるのだろうか?とドキドキしながら待っていた。
しかし、いつまで経っても読まれない。
別に親に確認してもらえとは言われていないが、学校の何か大事なモノに自分の文章が載るのだから最後のチェックはして欲しかったので、意を決して原稿を母の前に出し、
「読んで」
と頼んだ。
「置いとけって言うてるやろ!」
ヒラヒラと床に落ちた原稿は、翌朝にはグシャグシャになってゴミ箱の中に入っていた。
母がグシャっとして捨てたのではなく、自分でそうした。
読もうとも思ってもらえない自分の文章が学校の大事なモノに載る事が可笑しいと感じ、辞退したのだ。
結果、その大事なモノには他の子が書いた作文が掲載された。




