水遣り
朝の掃除の時間。
その日の俺は掃除ではなく、花の水やり当番だった。
花の水やり当番は日直の仕事の1つで、俺のクラスだけではなくて、隣のクラスもそうだった。
ナチュラルなボッチである俺が、他のクラスの児童と話す機会なんて早々ないし、ちゃんと顔を見る事もない。
花の水やり中、俺の目の前にソイツはいた。
同じ幼稚園出身の宮元(仮)だ。
4年2組の花壇の前には4年1組の花壇があるのだから、それは当然の事ではあるが、それなら後頭部か背中が見えていないと可笑しい。それなのに宮元は俺の方を向いているのだ。
気が付いていない振りをして必死に下を向きながら水をやって行くと、俺に合わせて移動してくる。
居心地が物凄く悪い。
さっさと終わらせて教室に戻ろう。
そう思っても、前にいる宮元に水をかける訳にもいかないので、ゆっくりとしか水やりが出来ない。ゆっくり、丁寧に。するとジョーロから滴る水が、俺の足に落ちる。
「あー……」
俺の口からはそんな声が漏れた。
「アハハ!木場君濡れたー。アハハハ」
そもそも誰のせいだと思っているんだ!とは声に出ず、チラリと視線を上げて笑顔を見るだけ。
目の前にいる宮元は、物凄く楽しそうに笑っていた。




