体育の授業で
体育の授業中、出席番号偶数生徒対奇数生徒でのドッヂボール大会が行われた。
勝利したチームに賞金が出る訳でも、商品が出る訳でもない、ただただ普通の体育の授業。それなのに、勝負事となると運動神経の良い生徒はかなり本気になる。
最初に外に出る3人はボールを早く投げられる攻撃重視の生徒が選ばれ、ボールを受ける事が得意な防御型生徒は敵陣地の境界線ギリギリの所に布陣する。その他の生徒は中央や端っこに固まり、とりあえずボールから逃げるだけ。
しかし、極まれに何をしても上手くいかないお荷物生徒もいる。
運動神経がほとんどない俺も、そのうちの1人。しかも、達の悪い事に偶数チームの中にお荷物係は俺しかいなかった。
さぞや周囲から冷たい目で見られたのだろうと思うだろうが、体育の授業中における運動神経の良い生徒達の男前っぷりには際限がない。
「当たらんように逃げるだけでええからな」
「絶対守ったるからな!」
「無理してボール受けようとせんでええからな」
ボールから逃げる事だけに集中する事しばらく。
やけに周囲がガランとしてきたと感じて見渡した陣地の中には、運動神経の良い男子生徒と俺しか残っていなかった。
その男子は攻撃特化型だったので、投げられるボールを受け取れずに、俺と一緒になって避けるだけになっていた。
「ボール取れや!」
外にいる生徒達から野次が飛んで来るが、完全に当てる為に投げられる速球を受け取れる訳がない。しかし、受けなければいずれ当てられて終わってしまう。
勝つ為には、ボールを受け止めるしか……。
「いらん事すんな。お前は後ろで逃げとけ」
小学校中学年男子の台詞である。
ドゴッ!
ボールを受けようとして受け損なった男子。
ボールは男子の胸に当たり、高く打ちあがった。
ノーバウンドで取れば、セーフになる!
「木場、頼む!」
男子から聞こえて来る声。
絶対に取る、絶対に取るんだ!絶対にっ!
ガシッ!グキッ!
「った……」
慣れない事をするものではないのだろう、俺はボールを受け止める事は出来たが、同時に左手の中指を激しく突き指した。




