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SHORTで、俺。  作者: SIN
小学校 中学年

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2階

 3DKの間取りで、6人家族。

 部屋割りは2階の奥の部屋に母と姉、手前の部屋は親父と弟、俺は祖母と1階の部屋を使っていた。

 幼稚園の年長から、小学4年の初めまで。

 完全におばあちゃん子に育った俺と、家にいる時は殆ど2階にいた両親と姉。

 極度の人見知りだった俺は、良く顔を合わせている祖母と弟以外の家族に対して人見知りを発動させていた。

 なので、2階に行く時は外出するような気分だった。

 それでも、宿題を見てもらうには2階に行かなければならない。

 晩酌をして気分が良くなっている両親に水を差しに行かなければならない。

 「おいで」

 2階に行くと毎回親父にそう呼ばれ、近付くと膝の上に座らされた。そのまま晩酌を続けるものだから、大人しく座りながら宿題を出すタイミングを計る。

 しかし、親父は酔うとキス魔と化す。

 膝に乗っかっている俺は、被害者第1号となる訳だ。

 ある日の事、親父は俺を膝に呼び耳元でこう言った。

 「2階に来るか?」

 もう2階にいるのに、可笑しな事を言うんだな。とか思いつつ、首を傾げていると、また、

 「一緒に、2階に住みたいか?」

 と、分かりやすく言い直した。

 俺にそんな意思は全くないし、なんならこうして2階に来るのだって緊張するから嫌だ。それなのに、一緒に2階で?何故今更?

 今そんな事が出来るのなら、人見知りが発動する前に出来なかった理由はなんだ?

 絶対に嫌だ。1階が良い。

 本音はそうだった。

 だけど、ニコニコしている親父に、面と向かって1階が良いとは言い難い。

 酔っているんだし、明日になれば忘れているだろう。それにもう夜だ、荷物移動なんて大掛かりな事今からはしないだろう。じゃあ、無難に答えて和やかに済ませよう。

 「2階でもえぇよ」

 2階が良い、とは断言出来なかったのだが、親父にはそれで充分だったのだろう。

 「よし、2階がえぇねんな?待っとけよ」

 え?

 スッと立ち上がった親父は1階に降りて行く。

 え?なに?

 「SINがな、俺らと一緒に寝たいって言うてるわ」

 1階から聞こえてくる声。

 え!?そんなの一言も言ってない!

 「なんやの?こんな時間に」

 困惑したような祖母の声。

 「やから、2階に連れてく」

 いやいや!1階が良い!

 ガサガサと荷造りするような音が1階から聞えてきて、俺は慌てて1階に下りようと階段に飛び出した。すると、丁度俺の布団を抱えた親父と、俺のランドセルを持った祖母が階段を上がって来ていた。

 ばぁちゃんと1階が良い。そう本音を言おうとした所で、

 「もう1階に来たいって言うても知らんからな!」

 と、鬼のような顔で祖母は怒鳴り、俺に向かってランドセルを突き出した。

 戻る場所は、何処にもない。だったら、2階に行くしかない。

 行くしかない。

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