お絵かきの時間
絵を描く時間。
その日の授業では、完成しても提出しなくて良いのでお道具箱の中に入れておきましょう、と言う内容だった。
しかし、画用紙が配られた時点で創作意欲剥き出しの俺は、その先生の説明を途中から完全に聞いていなかった。
その時に教室で飼っていた金魚を熱心に眺めながら描き、忠実にエアーポンプまで描き、空気の1粒1粒まで律儀に描き、仕上がった絵はエアーの部分がとんでもなくグロテスクな物となった。
自分でも失敗作だと思いつつ先生の所に持って行くと、話を聞いていなかった俺に対しての説教が始まり、その結果、
「どうするのか島村さん(仮名)に聞きなさい」
と言われ、それまで喋った事すらない島村さんに絵をどうするのかを聞いた。
「なにーコレーきもちわるー」
とてつもなく真っ直ぐに絵の評価を口にした島村さんは、絵は道具箱の中に入れておくんだよーと満点の笑顔で教えてくれた。
そうか、提出しなくて良いのか。
その事実は俺に「無制限で絵を描いても良い」と誤解させた。
絵描きの授業が終わる少し前、本当ならば先生の前に集合しなければならない時間になっても俺は金魚の入った水槽の前で、少々グロテスクな泡の部分を何とか誤魔化そうと絵の手直しをしていた。
そんな俺に先生は、
「島村さんに言われたの?」
と、聞いてきた。
先生は、島村さんに絵の手直しをしろと言われたのか?と聞いたつもりだったのだろうが、当時の俺はそうではなく、島村さんに絵をどうしたら良いのか言われたの?と捉え、
「(道具箱の中に入れるという事を)言われた」
と答えてしまった。
それにより先生に呼び付けられて説教を受ける羽目になった島村さんは、言ってないと泣きながら訴え、俺を指差し、
「嘘つき!」
と叫んだ。
それでも何の事を言われているのか分からなかった俺は、朝食の発表で毎日嘘を付いていた過去がバレたのでは?と考え、素直に謝った。
「嘘付いてたん!?」
こうして俺を怒り始める先生。
ここでようやく状況を理解出来たのだが、出来た所でどうにもならず、俺は大人しく怒られたのだった。




