ピ~コちゃん♪
放課後の掃除を押し付けられた帰り道。
掃除をしてからなのでかなり遅くなった帰り道には、意外にも他の児童が大勢いた。
あれ?
歩き出してすぐ、10メートル程前方に見慣れた後姿を見付けた。
その後姿は俯き加減で、かなり足早に家に向かって歩いている。いや、競歩に近い感じだ。
走って追いかけなければ追いつけないか。
早々に一緒に帰るという選択肢が頭から消えようとした時、ソレが俺の目に飛び込んできた。
足早に歩く後姿、俯き加減の後姿の違和感が、その存在で完全に消える。
自転車に乗った男が、前を歩いている弟の歩調に合わせるように低速で、ピタリと後を付けていたのだ。
弟はそれでも家に足を向けている。
早く、追いかけなければ!
体育の授業でも全力疾走をしない俺が、この時ばかりは必死に走った。
徐々に大きく見える弟の後姿と自転車に乗った男。そして聞こえて来るのは、
「ピ~コちゃんでピピピッピ♪」
と言う不気味な歌。
走って追いかけた弟の腕を掴んで声をかけると、俯いていた顔が振り返ってきて、少し引きつった顔で俺の少し後ろを捉えている。
怒りに任せて振り返り、真正面から見た男は無表情で無言だったのだが、ブレーキでカカカカッと高速でビートを刻んでいた。
少しだけ続いた沈黙、そして男はまた
「ピ~コちゃんでピピピッピ♪」
と歌いながら学校に向けてUターンしていった。
「明日から一緒に帰ろっか」
「うん」




