四章 ジェドージァプトについたーよ!
無言のまま作業は続き、ワープホールが出来上がった。彼らは片足を踏み出して、気が付いたら、敵の本拠地に踏み込んでいた。敵に囲まれた夜月たち、兵士の一人が指を差し、
「馬鹿め! 我ら『ジェドージァプト』の軍事本拠地『ジャドージャプト』の中心的軍事基地にわざわざ乗り込んでくるとは……(以下略)」
この後どうなったかも(以下略)
効果音でお楽しみ……ボカッ! ドカッ! ヒューン、ボカァンっ!!
「片付いたな。ったく、余計に喋るからこうなるんだ」
床に伸びている兵士に説教して、尋箭は少し遅れて、進み始めた。兵士がムクと起き上がり、小声でボソッと「くそ……、あのクソガキども……」
「次からは気をつけろよ~っ!」
尋箭は遠くから叫んだ。
中心軍事基地というのは、嘘ではなかったらしい。彼らはもう何十分も歩き続けている。
「しかしあれだな、でかいな。」
尋箭はモップを担いで、あくびと一緒にもごもご声を出した。
「あくびしながら話すなよ。」
そう言い切ると、健太もあくびをした。
「ホンマ二人とも、だらしないなぁ。これやから最近の中学生は……。」
と言いつつ妖精は大きなあくびをした。
「お前が一番だらしねえ!」
二人にツッコまれ、妖精は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の男子中学性二人を論破してやると誓ったので、彼らはごたごたしてた。
そんな三人を見ずに、夜月と聖火は斜めに並んで、見向きもせずに歩いている。聖火は、握っている『回復の杖』に目をやった。汚れている。彼女は持っていた小さな白いハンドバッグから、ハンカチを取り出そうとして、手を滑らせた。あ、と思う。ハンカチが宙を舞って、床に落ちそうになったのを、夜月が掴んで聖火に手渡した。
「あ、ありがとうございます。」
それに夜月は軽く会釈して、その場は納まった。のだが、やっぱり黙ったままでいるのはばつが悪いと思った聖火は、話しかけようとした。
「全然汚れてないのに拭くの?」
聖火が声を出そうとするのと同時に、夜月がこう訊いた。聖火は変に間の空いた後に、答えのないまま打ち明ける。
「この杖をもらった時に、私、本当にうれしかったんです。なんだか、本当に世界が変わってしまうような、なんだか、そんな感じがして…。この杖を大切にしたいなって、そう、思って……。本当は、私も勇者になりたかったんです…。剣を振るって、私の家を潰した悪いことした人を、倒したかったんです。でも、妖精さんが言うには、『聖火にはあってない』って。私、そんなにおとなしそうに見えますか? こう見えて……。でも、妖精さんは正しかったんです。さっきからの戦いを見てると、勇者ってとても大変だなって、わかったんです。だから、皆さんのこと、少しでも手伝いたいなって思って、それで……。」
夜月は黙って、聖火の話を聞いている。聖火は失笑して、付け足す。
「結局何の答えにもなってませんね。えと、だから、この杖を大切にしたいからです。」
夜月はうなずいて、特に反応もせずに、歩き続けた。聖火は焦って声をかける。
「あの、グダグダな話し方ですいません。その、私話すの苦手なんです…。だから、ごめんなさい。」
「話すの下手じゃないよ。」
夜月はそう言って、首を傾げた。髪がまつ毛に引っかかりながら、落ちて行った。聖火はすっかり黙って、照れたような、苦いような顔をして、歩いて行った。
敵をボコスカ倒している内に、外に出た。そこには、近未来的な灰色のビル群が、昼下がりの日光を受けて、そびえたっている。沈黙したような街だ。何処を向いても緑なんてものはなく、灰一色である。空を見上げても、視界の端には高い壁に遮られてる。渓谷に突き落とされたみたいだ。夜月たちは敵の本拠地目指して進んでいた。
「しかしあれだな、敵が多いな。」
尋箭は、大きなあくびをした。
「しーっ。静かに!」
妖精は囁くように注意した。
「敵に見つかるやろ!」
「はいはい。」
五人は物陰に隠れて、敵がどこかへ行くのを待っている。これだけの数に見つかってしまうと、負けはしないとはいえ、めんどくさい。彼らにはもうほとんど時間が無いのだ。倒した兵士から、一時間後に夜月たちの世界に向けて、行軍が始まるのだそうで。こそこそ隠れていくのは大変だけど、これしか方法が無い。しかし、尋箭はこういうこそこそするのが苦手で、すでにイライラしていた。そこで我慢。
されど、我慢。
とにかく、我慢。
いつもより、我慢。
どうにかして、我慢。
ギリギリだけど、我慢。
限界が見えてきて、我慢。
最後の最後まで耐え、我慢。
それでもって、プッツン来て、突撃!
「あ、こら!」
と、妖精が呼び止めても、聞く耳持たずに、尋箭は敵をモップでぶん殴って
「おい、てめぇら! 黙ってればのろのろそこらじゅう歩き回りやがって! 俺と戦いたい奴は出てこいこらぁ!!」
と、叫ぶ始末。四人はぽかんとしていたが、健太はすぐに気付いた。
「すぐに、本拠地に向かおう! あいつがあれだけ暴れてたら、ほかの場所の兵士は少なくなる。今が一番のチャンスだ。」
「ですが、尋箭さんは?」
「大丈夫さ。あいつなら。」
健太は力強く答えた。こうして夜月たちは、建物の合間を縫って、別の幹線道路に出た。尋箭のもとにはものすごい数の兵士たちが敵の援軍として駆けつけて来るが、次々と吹き飛ばしていった。
幹線道路に出た夜月たち。彼らの向かうべき先は『ジェドージァプト』を支配する『ジョルトネルガー』の居城『ピラミッドキャッスル』である。
長い大通りを走り抜け、彼らの眼前に現れたのは、巨大なピラミッドだった。驚いてる暇もない。彼らは鉄格子の門を開いて、敵の居城へと乗り込んで、中にいた「キメラ」たちをぶっ倒して、ついでに「ゴーレム」類をなぎ倒して、見事に最上階に上り詰めた。のはいいが、そこにはめぼしいものが何もない。
「なんやこの部屋? なんもないし、誰もおらん。」
「もしかして、手遅れか。」
「そんなはずはありません。だって、まだ敵の行軍も始まってないのに。」
三人は途方に暮れていた。ここまで登って来て、何もないとは。このままでは、夜月たちの世界が危ない! それにもかかわらず、夜月は平然としていた。上を向くと、嫌な事も忘れてしまうのだ。
さて、街中で一人戦いつづけていた尋箭だったが、ついに全滅してしまった。
「全く、どうしようもない奴らだな。」
尋箭はモップを担ぎなおして、ピラミッドキャッスルに向かう。
「一番許せねえのは『ジョルトネルガー』ってやつなんだがな。」
尋箭が行ってしまった後に、兵士の一人がある男に無線で報告する。
「く……。ナイト部隊、全滅……。我々では、一人の相手にもなりませんでした……。」
無線が切れる。報告を受けた男は、『ジョルトネルガー』とともにいた。冷静に切り出す。
「行軍は不可能です。しかし『アルレイ』を制圧するには、あなた一人で十分です。」
ジョルトネルガーはそれに同意する。そして、重い腰をついにあげた。