三章 パーティーは3人派? 4人派? それとも……5人?
思った以上に滑ったので、妖精は顔を真っ赤にして、静けさを掻き消すように
「ほんまに運動城って言うねんで!」
と手足をバタバタさせながら弁解した。だが、夜月たちは冷たい視線を妖精に送り続けた。さすがの妖精もシュンとなって、謝った。
「ごめん、でもほんまに……」「しつこいっ!」
気を取り直し、妖精は『ジェドージァプト』にいる敵を倒すためには乗り込むしかない! と主張した。彼らもそれには納得した。ではどうするのか。妖精が言うには『運動城』の内部にある、敵軍が使っているワープホールで一っ飛びッ! らしい。
というわけで、彼らは運動場に攻め入った。夜月たちの奇襲をうけて、敵軍をあっという間に壊滅してしまった。難無く彼らは最上階に上り詰めた。壁が全面ガラス張りになっていて、彼らの街が一望できる。夜月の家があった辺りは、広い荒野に変わっていた。地平線まで何の建物もないぐらいに真っ平らで、黄土色が空を黄色く染めている。グラウンドがずっと、あそこまで続いている。
夜月は荒野を眺めている。健太と妖精はコンピューターをいじりまわり、尋箭はモップで素振りをしていた。
「あ!」
妖精が声をあげた。何かと思えば、ワープホールができていた。
「できたな。」「そうだな。」「んじゃ、行くか!」「うん。」
四人が時空を越えようと片足を踏み出した瞬間
止まれ!
と、何者かの声が轟く。振り返ると、そこには一人の兵士が立っていた。
ヒソヒソ……。
「誰?」「いや、しらんぷりして行ったらいいねん! あんなん相手にしてたらキリない。」「でもこういうのって、フラグだから、回収しといた方がいいんじゃない?」「ほんとに止めたいんなら、とっくに攻撃してくるだろ。誰かに言わされてるだけで、止める気なんかねぇんだよ。あいつ。」「じゃあ行く。」「やな。」「うん。」「いくか。」「きこえてるぞ……」
そして、無視していこうとすると、ワープホールが消えてしまった。四人は同時に振り返って、敵を睨みつけた。敵は静かに、しかし雄々しく立つ。武器を持たず、四人と対峙する。顔色はともかく、目の色すら変えない。その自信はどこから来るのものなのか。今までの敵の軍服と型が少し違うと気付いた時、異質な声色がその場を包んだ。
「俺の名はギア。ジェドージァプト軍総帥『ジョルトネルガー』の命により、始末する。」
四人に向かって突撃してくるギア。無謀にも見えたが、次の瞬間、ギアの姿が、炎龍へと変化した。業火に身を包み、矢のように飛んで来る。夜月は身をかわし、尋箭は受け流し、健太は見事な剣で身を守った。妖精は小さな体を活かして隠れた。その間にも炎龍は身を翻し、火を噴いた。三人は各々それを何とかして、攻撃を仕掛ける。だが、炎に包まれた胴体が夜月たちの攻撃を、実体に届くまでに遮ってしまう。炎龍がまた突撃してくる。室内の温度が急激に上昇してサウナのようになり、夜月たちの体力を奪っていく。そこに追い打ちをかけるように、火炎がまき散らされる。攻撃を防いでも、熱気が防げない。そして、夜月たちの攻撃は相手にほとんど効果が無く、気温はさらに上昇していき、敵の攻撃を避けるためのスタミナも底をついてしまう。かなりの時間戦っていたが、今思えば一瞬だった。
動けなくなった彼らを蹴散らすのは、ギアにとっては簡単なことである。炎龍となって、夜月たちに向け、再び一直線に飛来する。轟音が周囲を包み、彼らの目の前が真っ赤になった。彼らは助かったのだ。なぜならギアの動きは彼らの目前で剥製のように止まっていたからだ。
「ぐ、なんだこれは!」
今です! 攻撃してください!
動揺するギアの背後から、聡明な声が聞こえてきた。夜月たちはその声に導かれるがまま、同時攻撃を繰り出した。
「くそ、覚えておけ!」
負傷したギアは逃げて行ってしまった。こうして夜月たちは敵を撃退することができた。ところで、あの声の主は誰だったのだろうか。
「それは、私です。」
「ん、だれだ?」
三人の前にいたのは、高身長の、髪を一つくくりにした、少女だった。
「全然小さくねえじゃねえか!」
と、尋箭が余計なひと言を言ったので、挨拶代わりにビンタされた。
気を取り直し、彼女の名前は陽日聖火。素性は明らかではないが、悪口を言われるとビンタする。そのため、味方をサポートする魔法が使える。と言うより、妖精が彼女に渡した杖が魔力を持っているから、自然とそうなってしまう。ようやく Fantasy らしくなってきた。
「という訳で、よろしくお願いします。」
聖火が深々とお辞儀すると、尋箭は腕を組んだ。
「よし、これから俺の事を師匠と呼べ!」
「いやです。」
聖火は一言述べた。それを見て健太は、普通に挨拶する。
「よう、これからよろし……」
「はい。」
終了。
「ウチは、妖精や。よろしく!」
「先ほどは、杖を頂くことができ、大変光栄と存じます。」
「なんかかたない? ちょっと間違ってるし。」
妖精は、とりあえず笑顔になった。妖精には普通に対応する聖火だった。
「……。」
「……。」
夜月は何も言わずに、窓の外を見ていた。それを見て聖火は、特に何もしなかった。
空が黄ばんでいる。黄色くて固い、枯れたような土が空に舞っているせいだ。あれもこれもそれもどれも全部、あの荒野のせいなんだ。後に会話が続かない。どうしようもない朝の光景だった。