二章下 始まりはフィナーレの後に
「……んで、結局何事もなかったわけだ。」
健太はほっと胸を撫で下ろしたが、尋箭は彼の頭をぶん殴った。
「いたっ! 何で殴るんだよ!」「安心したからだよ!」と反論する割には笑顔であった。
「まあまあ」
妖精はそこに油を注ぐ
「三人揃ったんや、冒険に行こか!」
「何でそうなるんだよ。」
健太がため息をつくと、妖精は魔法で健太を吹き飛ばした。
健太が一番星になる。
妖精は遥か空を見通して言う
「ああなりたくなかったら行くでー。」
そして、先頭に立って、屋上から下に降りる。
脅さなくたって尋箭は冒険について行く、というより、彼の場合は脅しても無駄である。夜月は力を貸すと約束した。だから逃げ出したりはしない。健太は逃げ出そうにもすでに死にかけである。よってここに三人の勇者が誕生した。
世界を救うべく、三人の勇者
具体的に何を救うのか、まだ未定である。階段を下りながら会議を開く。
F3 「やっぱり世界救わな、貧困で苦しむところとか。」「却下」「じゃあどこにするんだ?」「妖精の故郷」「あかん、また泣く。」「泣くな」「あ!」
とここで尋箭がひらめく
F2 「そういや、もうじきここに敵が来るぞ。」
妖精が急に明るくなる
「ほな、そいつら倒そ、それでええやろ。」「誰?」「この学校を襲ってきた奴ら。変な装備してたし、どこから湧いてくるんだか。」
F1 尋箭の言葉に妖精は凍りついた。
「どうしたの?」
夜月が声をかけると、妖精は首を振って我を取り戻し、二人に打ち明けた。
「それはたぶん、『ジェドージァプト』の軍勢や……。」
「『ジェドージァプト』って何だ?」
尋箭はのんきに欠伸する。対照的に、妖精はどこか恐怖しているように見える。夜月は二人の間を、先頭を切って歩く。体育館に向かう彼らの前に、突如、五式神らしき敵が出てきた!
「我の名は……。」
と、自己紹介する間もなく妖精と夜月と尋箭にボカボカと叩かれ、倒された。夜月たちは何事もなかったかのように進む。
「それで『ジェドージァプト』って何だ? 何でここに攻めてくるんだ?」
尋箭はモップを担ぎなおして、振り向きざまに妖精に問いかけた。妖精は先程とは違って、確かに震えていたけど、まっすぐな声でこう言う
「あいつらは『フェアリーフロンディア』を滅ぼした奴らや。」
「へー。」
尋箭は頭を掻きながら眠たそうに
「さっきの妖精の強さがあったら、あんな奴らに負けるとは思えねぇけど。」
と言った。
「雑魚はどんなに強い軍隊でも所詮雑魚や。けど、居んねん。」
妖精は言葉を詰まらせ、窓の外を見る。外は酷く砂埃が舞い、黄土色の霧が視界を掻き消していた。
!!!
体育館から悲鳴がした。尋箭は真っ先に走り出した。
「待ってや!」
その後を夜月と妖精が追った。
体育館に着くと、そこには誰一人もいなかった。夜月たちが内部を少し調べると、舞台上に一台のテレビが砂嵐になっている。人気のない静かな体育館に響くその音がどれだけ不気味か、彼らはそれを肌で感じていた。
「おいッ!」
「なんや!?」
突然、妖精の動きが封じられた。夜月と尋箭は動こうとしない。
「た、助けてや!」
妖精が二人に助けを求める。しかし、夜月は動かない。尋箭に至っては欠伸をして
「馬鹿馬鹿しい」と言って体育館から出て行った。
「ひ、ひどい……。」
妖精は涙ぐみ、しゅんとなって羽をうなだれた。彼女の中には絶望しかない。
「はなしてあげて。」
夜月はぽつりと言った。妖精の体が自由になる。
「やった! なんや、夜月にビビって放したでコイツ。ははは……。」
「はははじゃねえよ!!」
妖精を掴んでいたのは健太だった。健太は怒っている。
時間がもったいないので夜月と妖精は健太の主張を聞き流してグラウンドに出て行った。
グラウンド、すなわち運動場。外に出ると、尋箭が佇んでいた。後ろから声をかけると尋箭は
「今何時だ?」
と訊いてきた。健太がゲーム機で確認すると、時刻は7時59分だった。尋箭は笑みを零した。
「来るぞ。敵の本隊が……!」
砂埃が風に乗って視界を遮っていた。それが一気に晴れ渡る。
青い空がのぞくと、白い雲。
彼らの眼前には、巨大な兵器城が存在していた。
健太が驚愕し、尋箭が楽しそうに笑う。妖精は夜月の影に隠れ、夜月は城を凝視する。
透き通ったコバルトブルーに黒銀の機械銃が映える。大地に根を張った超大木のようにそびえて、彼らを見下ろす。機械仕掛けの城は、運動場に降り立つと、静かに座り黙り込んだ。
「な、な、なんだあれ!?」
健太は焦って妖精に訊く。妖精は物音がしないことを確認して、ひょっこり出てきた。
「あれは……。」
目を疑うような大きさ。なぜ運動場に入れたのか不思議なくらいに大きいその城の名は
「『運搬用機動兵器城』……略して
・・・運動城・・・
季節に合わない北風が吹く。