二章上 you sey "are you yusha?"
健太と尋箭が合流した時にはすでに、空は明るくなり始めていた。一方の空は徐々に赤く、もう一方の空は夜の闇を残していた。今日は新月だろうか、月は昇ってこなかったように思えた。いや、本当に月が昇ってこなかったとしても、それ以上に驚くべき光景が夜月の目の前に現れた。
「ハッピー・ハロウィ~~ン!!」
「……。」
「やあ、元気かい?」
「……。」
ハイテンションで夜月の前に現れたのは、なんと妖精だった! しかし夜月は無反応のまま進もうとした。妖精は夜月の周りを飛び回って進行の邪魔をする。その上突然お腹を抱えて笑い出した。
「アハハハハハ……。」
無視して夜月が階段を上り始めると、妖精は夜月の顔を覗き込んで、彼の名前を尋ねた。
「……。」
夜月はうつむいたまま答えない。妖精は空中で地団駄踏んで叫んだ
「優しく訊いてるうちにさっさと答えろボケッ! カスッ!」
「……。」
妖精の暴言をも耳に入れないで、夜月は階段を上り続けた。さすがの妖精も夜月を心配し始め、再び顔を覗き込むと、今度は優しく
「本当に大丈夫?」
と訊いた。夜月は小さくうなずいた。もう四階まで来ていた。
「これからどこに行くの?」
妖精は、大体の見当はついていたが、恐る恐る訊いてみた。
「屋上。」
最上階にある扉に手をかけた時、夜月がようやく妖精に話しかけた。
「妖精っていいな」
「なんで?」
妖精は首をかしげた。夜月が妖精に視線をやる。
「悩みとかなさそうで、明るくて。」
その扉を開くと、冷たい夜風が校舎に流れ込む。風の音の中に、妖精の声が聞こえた。
「悩みなら、あるよ。」
夜月は振り向いて、立ち止まった。