表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の大冒険(打ち切り)   作者: 鹿馬 真馬
4/22

一章 三人の勇者

 家がなくなった人々は、学校の体育館で生活する事になった。


 学校の正門から、道を挟んで平行に伸びる川がある。そこから先は小さな畑があり、その先には住宅街が広がっていたが、今では荒野が広がっている。一日にして学校南側の住宅は、一件たりとも無くなってしまった。

 実に多くの人が悲しんでいる事だろう。住む家を奪われ、路頭に迷う人々。中には生まれたばかりの赤ちゃんもいる。その子が泣きだすと周囲の人が側によって、よしよしとあやす姿を見ると悲痛に思える。そんな光景を、夜月は目の当たりにした。

 彼は砂嵐の中で方角を見失い、しばらく歩いてようやく学校にたどり着いた。どうしようか迷った彼は忘れ物を思い出して、校舎に入ることにした。すると、いつもとは違って体育館がとても騒がしかったので、入り口の扉を開けた、ということである。彼は中に入ろうともせず、扉を開け続けていた。


 「よお、お前も家がなくなったのか?」


 夜月が振り返ると、そこには少年がいた。この時期に半袖のシャツを着ている。夜月は何も答えずに、少年に目をやる。

「なんかいえよ!」

「だれ?」

夜月が訊くと、少年は、よくぞきいた、とでも言うようにうなずき、腕組みをして答える。


「俺は泣く子も黙る『津和中尋箭ひろや』だ!」


夜月は何も言わなかった。

「なんか言えよ!」

「なにを言うの?」

夜月にそう訊かれ、尋箭は教官のように首を振った。

「明らかにおかしいだろ。今の自己紹介。泣く子も黙る、って馬鹿じゃねえの? とかなるだろ!」

それを聞いて、夜月は首を傾けた。

「わかってるんなら、次から気を付ければいい。」

「お前なあ……。」

尋箭は呆れてため息をついた。いきなり変なことを言って返答を求める尋箭も尋箭だが、あまりにあっさりしている夜月も夜月だ。

「てか、お前はだれだ?」

尋箭に訊かれて、夜月はいつもの調子で答えた。


「『社夜月やつき』」


「ああ、じゃああれか、お前健太のダチだろ?」

聞き覚えがあって尋箭が言うと、夜月はうなずいた。

「物静かなわけだ。」

尋箭も妙に納得して、うなずいた。


 その後、二人は体育館の入り口で話していた。ほとんど尋箭が一方的に話していたのだが。そこで住宅街の話が出た。

 尋箭によると、今日の朝方、黒いスーツを着たセールスマンらしき男が住宅を訪問して行き、その時にアタッシュケースを渡して、家を土地ごと買い取って行ったと言うのだ。アタッシュケースの中には現金六億円程が入っており、訪問されて断った人はほとんどいなかったという。尋箭の家族も家を売ったそうだ。

「てなわけで、今日から体育館暮らしだ。学校近いから便利だしな、宿題やんなくても大目に見られるだろうし、なんか面白そうだしな。」

一通り話し終えると尋箭は伸びをした。それを夜月は不思議そうに見て静かに呟いた。

「辛い思いをしてる人はいないのか。」

しかし尋箭には聞こえていた。

「わかんねえ。けど、みんな大丈夫だろ。あんだけの大金があったら何とかなるだろうし。」


「そっか。」


夜月はうなずいた。そしてぽつりとこぼす。


「きょうで」と。


 「どっかいくのか?」

夜月がふらふらと外に出ていくのを見て尋箭が呼ぶと、夜月は振り返って

「またあした」と手を振った。

 その足取りは重く、ゆったりとしたまま、校舎の闇へと消えていった。夜月が行ってしまうと、尋箭はすることがなくなった。


 一方その頃、健太は家で剣を握っていた。


 「なんだこれ?!」


見ての通り剣だった。健太は照明にかざしてみた。見事な剣だ、まるでゲームに出てくるぐ……携帯電話が鳴った。


ピッ!

「もしもし、健太か?」

「ああ。尋箭か。何か用か?」

「暇だ。」

「暇だからって電話してくるなよ。」

「いや、さっき夜月に会ってさ。」

尋箭の言葉を聞き、健太は疑問に思った。尋箭と夜月は赤の他人であるからだ。

「どこで?」

「学校。」

「学校? なんでそんなとこに?」

「実はな……。」

尋箭は大体のことを説明した。健太は怪訝な顔をして、自分の握る剣を見た。

「今からそっちに行く。」

「了解。じゃあもう切るぞ。」

「どうした、暇なんだろ?」

「暇じゃなくなりそうだし。」

その時、電話の向こうからガシャンと音が聞こえてきた。

「何だ今の? 尋箭、お前また誰かと喧嘩しようとしてるのか?」

「いいから早く来いよ。」

「分かった。」


 そこで電話は切られた。


健太には気掛りが二つあった。自分の持つ剣の事と、押し黙るような夜月の態度である。彼の脳裏をよぎるのは、3年前のある事件だった。


 その頃、夜月は校舎の中にいた。下足室はカギが開いていて簡単に入れた。何を考えているのか、自分ですら解っていない。夜の校舎の中、闇に包まれて一人で廊下を進んでいる。窓から微かに入る青白い街灯の光が、一層闇を目立たせる。その中で、一つ、怪しげに動くものがいる。人影だ。それは何か小さな箱に封をしている。夜月はしばらく様子を見ていたが、声をかけた。


「だれ?」


「だ、だれだぁ!」

男のようなだみ声を上げ、そいつは慌ててナイフを取り出し身構えた。

「で、出てこい!」

と言うので、夜月はのこのこ出て行った。夜月と男の間には4,5メートルの距離がある。男はナイフを見せつけ、夜月を脅す。

「し、死にたくなかったら大人しくこっちに来い!」

しかし、夜月は動かない。それどころか、立てかけられていたホウキを手にし、その先端を男に向けた。男は動転して、ナイフを両手でしっかりと握って、足をがくがくさせた。夜月は不気味に首を傾け、男との距離をゆっくりと詰める。男は慄き、上擦った声を上げる。

「こ、このやろー! 死にたいのかァ!」

夜月は静かに目を見開く。男を見下すように呟く。

「ああ、死にたいさ。」

「だったら殺してやる!」

吐き捨てると同時に、夜月に襲い掛かった。

「だが……」

男が夜月を一突きにしようとした時、夜月は流れるように身をかわし、背後をとってホウキで一撃を浴びせた。男は気を失って、倒れた。

「自分の命なんていらない。そんなもの、他人の手を借りるまでもない。自分で処分する。」

彼は再びうつむいて二階へ行こうとするが、さっきの箱に吸い寄せられるように、そこに向かった。




 尋箭は体育館倉庫からモップを取り出して、グラウンドに出て行った。コスプレみたいな恰好をした騎士兵たちが集まっていたのだ。彼らは、近づいてくる尋箭に全く気付かず、作戦会議を開いている。

「我々は本日24時、この巨大な要塞に突入する! 援軍は1時間ごとに派遣され『運搬用起動兵器城』の到着する明朝8時には攻略していなければならない。我々の任務は、作戦の遂行と奴隷の確保である。では全軍、検討を祈る!」

集団の先頭に立つ上官が敬礼すると、ほかの兵士も揃って敬礼する。そして上官が命令すると、兵士たちは武器を構えて、雄叫びをあげ、学校に突撃していく!


 が、一人吹っ飛んだ。


「な!」


また一人が吹っ飛んだ。


「だ、誰だ貴様!」


兵士たちの突撃は止まった。視線の先には尋箭がいる。彼はモップを構えて、爆笑している。何ともご機嫌そうだ。


「おい、そこの餓鬼! じゃまをするな!」


兵士の一人が叫ぶと、尋箭は激怒した。


「今餓鬼って言いやがったのは誰だっ!」


尋箭が一喝すると兵士は黙ってしまった。


「分かんねえなら全員かかってこい! きれいさっぱり掃除してやる!」


そう言い終えると、尋箭は兵団に向かって突撃していった。


「あーあーあー。大変なことになってるな。」


そこに健太が駆け付けたが、ポンポン飛んでいく兵士たちを見て開いた口が塞がらなかった。


そこに敵の援軍が駆け付けた。


「貴様何をしている!?」


「いや、なにも。それより助けに行けよ!」


健太はグラウンドを指差した。兵士はチラッと見て、


「何だあれは?!」


と声を合わせて叫び、また、


「貴様ぁ、許さんぞっ!!」


と、健太に刃を向けた。


「俺、関係ないでしょ!」


と健太が言っても無駄である。健太は仕方なく剣を構えて、敵と戦う。


これは書くまでもないことだが、


果たして、彼らの運命はいかに!?


つづく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ