10章 決断(上)
皆さんこんにちは。
鹿馬真馬、改め、時とこねと申します。
楽しみにしていた方がいらっしゃるかは分かりませんが、
ずっと長い間投稿できず、お待たせしてしまい、本当にごめんなさい。
これからは月に一度は投稿できるように頑張りますので、応援の程よろしくお願いします。
それは何もない午後の事。
のどかに時の過ぎる海の上。
風は上々、波は並々、海猫が一鳴きする。
沖まで出てきた釣り人が、一つ大きな欠伸を。
青空を
切り裂き進む白銀の両翼
風鳴き
過ぎれば雷鳴
釣り人は空を見上げたまま、顎が外れたままだった。
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ティアラの機内、操縦桿を握るリュウが声を張り上げる。
「もうじき見えて来るはずです。」
夜月は窓の外に目をやった。遥か彼方に、黒い点がぽつりと浮かんでいるのが見える。
「やっと見えたか。」
目を覚ました尋箭が首をぱきぱき鳴らして気合を入れる。
「長いもんだな。」
「ようやく決戦ってとこかな。」
健太はリュウから渡されたレーザー銃を手入れする。
「今度こそは負けない。」
彼らはこの数日間。敵の拠点をいくつも潰してきた。ほんの短い期間であったが、それは濃密な経験となって彼らを強くしてきたのだ。
リュウ、健太、尋箭、そして夜月。
四人は徐々に近づく戦艦を見つめ、それぞれの想いを持つ。
リュウは深く息を吸い、三人に伝えた。
「これから敵のレーダーの範囲内に入ります。万が一の為に衝撃に備えて下さい。それから確認しておきますが、聖火さんは敵戦艦の艦首部分にいます。私たちは戦艦の丁度真ん中に突っ込むので前方を目指してください。」
そして淡々とした口調の後に力強く付け加えた。
「今回の相手は、きっと、今の皆さんになら勝てるはずです。私は、落されないように、頑張ります。」
「グッドラック」
その時、警告音が鳴り響いた。
「な、何だ!」
焦る健太と尋箭をよそにリュウは冷静だった。
「ついに来ましたね。しっかり掴まってて下さい。」
前方からはすでに無数の緑や黄色のレーザー光が飛び交ってきている。リュウはティアラのエンジンの出力を上げ、雲を突き抜け一気に高高度へと飛翔させる。機内では健太が気を失いかけているが、そこでリュウはエンジンを切った。と同時にレーザーはティアラに掠りもせず天空へと消えていった。
「今度はこちらの番です。」
リュウがそう言うとティアラは前方から自由降下を始めた。
「こ、今度は何だよ!」
健太は怯え切ったように訊ねる。それを見て尋箭はため息をついた。
「お前ビビりすぎだろ。」「うるさい!」
「レーザーはこちらのエンジンコアに反応してくるみたいなので、上空に上がってエンジンを切りました。あのレーザー砲かなりの追尾性があるみたいなので、今度は自由降下で……。」
「つまりどうゆうこと!?」「落ち着けよ。」
健太は耳を塞ぎながら叫んだ。どうやら尋箭の声も聞かないらしい。
リュウは一言。
「つまり、落ちます。」
その言葉に健太の表情が凍りついた。
「え、え、え……。」
「これでレーザーが当たる心配はありません。」
重力に吸い寄せられて落下速度は上がる。リュウの言うとおりエンジンを切って自由降下すれば、これなら厄介なレーザーに襲われる心配もない。しかし、大切なことを忘れてはいないだろうか。健太は思い出した。
「落ちないように頑張るんじゃなかったの!?」
健太の言葉も虚しくさらに加速する機体。加速していくと健太が騒がしくなる。隣にいた尋箭は少しの間我慢したが、すぐに一発小突いた。
「うっせぇ! リュウさんの邪魔になるだろうがっ!!」
健太はビビりはしているものの静かになった。
ありがとうございますとリュウは一言お礼を述べた。そっけないが彼女は今集中していてそれどころではないのだ。落下しながらレーザー砲台に確実に狙いをつける。久々に手に汗をかいているらしいリュウに誰も声を掛けることは無かった。
静かに狙いを澄ましその時を待つ。落下しているはずなのに少しづつしか詰まらない距離。焦らすように時の流れるのが遅い。リュウが操縦桿をぎゅっと握り、息を飲む。
『リュウ、落ち着きなさい。焦っても駄目ですよ。べっ甲飴が固まるまで待つんですよ。こういうのって待った方が美味しいんですよ。』
待つ。待ってこそ成るものが、成る事がある。
辛抱強く待ち、最適の瞬間を見極める。
商売の基本だけど、こんな時に考える羽目になるなんて。
そしてその時は来る。
「今だ!!」
リュウが目を見開いて発射ボタンを押し、ティアラに積んであったありったけの爆弾を戦艦にばら撒く。エンジンを急いで起動させ、爆風に巻き込まれないよう離脱する。エンジンコアに反応した砲台がレーザーを発射しようとしたが、爆撃によって砲台が壊れ、練られたエネルギーが艦内で暴発する。こうして戦艦上部からの強力な砲撃は無くなった。
「よし!」
リュウは心の中で喜んだ。心の中のつもりが思わず顔もほころんで来る。それに気付いた後ろの三人の表情も明るくなる。
ティアラは水面近くで体勢を立て直し、水しぶきを上げながら戦艦の下をくぐり抜ける。下部砲台のバルカンや戦艦から発進した無人機では、今の身軽になったティアラを捉えることなど出来ない。潜り抜けるとそのまま戦艦から少し距離を置いて旋回し、戦艦の中腹に向かって、無数に上る無人機からの攻撃をかわしてティアラは突撃する。
「皆さん、何かに掴まって下さい!」
リュウが大声を出した。ティアラから機関砲が打ち出される。狙いは完璧だったが、鋼鉄の艦体に全て弾かれてしまう。
「全然効いてないじゃん!」
「てめぇ黙ってろって!」
「健太さん静かにしてて下さい。」
その間にもティアラはエネルギーをその主砲に集中させる。
「これでどうだ!」
ティアラの主砲から強烈なレーザーキャノンが放たれる。眩しい閃光と共に戦艦のど真ん中に巨大な穴が出来た。ティアラはそこに向かって飛び込む。
「衝撃に備えて下さい!」
リュウが叫んだ。機内は今まで以上に激しく揺れ、健太が絶叫する。隣の尋箭は呆れてため息をついていた。
「どうなったの?」
「敵艦内に着陸しました。もう降りても……。」
揺れが収まると、夜月はリュウの言葉を待たずにティアラから飛び出す。
「おい夜月待てって!」
尋箭の呼びかけにも耳を貸さず、夜月は敵艦の中を全速力で走って行った。
「あいつシカトしやがって!」
尋箭も急いで外に出ようとしたが、健太が一向に動こうとしない。
「おい健太! 何してんだ!」
「あはははは……。」
「健太さんは放心状態です。」
何も言えない健太の代わりにリュウが答えた。尋箭はため息をついて健太の首根っこを掴む。
「リュウさん、気をつけてな。」
それだけ言うと尋箭は健太を引きずって、走って行った。リュウは一つ深く息を吸う。
「ありがとうございます。皆さんもお気をつけて。」
そして、ティアラは逆噴射して一気に戦艦内を離脱、エンジンを全開にして再び空を切り裂いて行った。




