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勇者の大冒険(打ち切り)   作者: 鹿馬 真馬
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9章 炎の儀式

 六日目の早朝、炎の儀式が始まった。


 聖火は兵士たちに連れられ、空中戦艦の艦首へと向かう。


 それでも、前日にカミヤから何が行われるのか聞いていたので恐怖は無かった。それに兵士たちもリュウのハッキングプログラムのおかげで聖火に対して親切に対応していた。


 甲板は鋼色、空は遥かに青い。日光の反射で眩しい目を細め、それでも前へと進む。その先には風の中に立つ白銀の十字架が見える。運命の時が来るまで、彼女は待ち続けた。




ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=




 空を切るその翼がオレンジ色に輝いていた。甲高いエンジン音は今にもはち切れそうに、しかしどこか安定した音を響かせ、そんな音さえ置き去りにするようにティアラは朝焼けに染まる海の上を飛んで行った。


 「……了解しました。あと呼び捨てはやめて下さい。それでは、聖火さんの事、よろしくお願いします。」


 聖火の救出のためにティアラに乗る夜月たち。無線に応答するリュウ以外は静かだった。


 本当にマッハで飛行しているのか実感が湧かないほどの乗り心地のよさだ。尋箭と健太はすっかり寝てしまっている。夜月は窓の外をじっと眺めていた。


 「あと一時間で敵のレーダーの範囲に入ります。準備は出来ていますか。」


 リュウは無線を切って後部座席の三人に話しかけたが、返事は無かった。リュウは三人とも寝ていると思ったが、夜月だけは起きていた。彼は流れていくのに変わる気がしない景色を見つめながら、静かにその時を待っていた。



              あと一時間



 十字架にかけられる聖火はカミヤの話を思い出した。


 「炎の儀式。

  その者に内在する炎の魔力を自分のものにするために行われる儀式

  その者は十字架にかけられる。魔力を失う以外は何も起こらない。

  だから大丈夫。その魔力を奪ったやつは、俺が倒す。」




              あと 50分



 「お待たせ~、って誰も居ない? じゃあ入るよ。」


 戦艦の中には貨物室がある。カミヤはその中に入っていった。彼はそこで『龍炎刀』を探す。



              あと 30分



 「はい、こちらリュウ。」


 「『龍炎刀』を見つけたよー。あと、聖火は艦首のところにいる。ティアラで戦艦のど真ん中に突っ込んでも大丈夫だよ。まあ、健闘を祈ってる。」


 カミヤとの通信を切り、リュウはしばらく黙ったままだった。



              あと 10分



 彼女が再び口を開くのは戦艦に近付いてからだった。


 「皆さん、もうすぐ敵の戦艦に突撃します。」


 リュウは夜月たちに大まかな説明をしていった。ティアラで戦艦のど真ん中に突っ込み、内部に夜月たちを降ろす。敵は無人機で攻撃してくるからティアラはすぐに離脱し、空中戦を開始する。夜月たちは艦首に向かって急ぎ聖火を救出する。夜月たちはティアラの空中戦が終わるまで安全なところに避難する。その後彼らは合流し、夜月たちの学校に帰還する。


 単純なのですぐに覚えられた。尋箭でも。


 「ま、敵をぶっ飛ばして聖火助けりゃいいんだろ?」


 「ええ、そういうことです。」


 リュウはそれで会話を切り上げたが、尋箭と健太が起きたことでティアラの中は急に騒がしくなった。


 リュウは珍しく鼓動の響きを感じた。普段ではないような異様な感覚であった。




ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=




 「まだ、なのかな。」


 聖火は一人、静かにその時を待つ。


 空は青く、風が強く吹く。ここまで周囲の風景に恐怖を感じることは無かった。理由もなく、目に映るすべてが畏怖の対象。脳裏には夜月の姿。


 「夜月君……。」


 その姿は本物ではないはずなのに、目の前に現れたのを信じるしかないのだ。


 「始めるぞ。」


 彼女の前にいるのは紛れもなく夜月の姿だ。


 「夜月君……。」


 彼女はいたるところで叫んだ。それでも、誰にも聞こえない。


 「炎の儀式。」


 夜月のそばには一人の女性。青いドレスを身に纏う女性が、天にその白く眩い腕を掲げる。


 「助けて……。」


 もうろうとする意識の中で、聖火は無意識に叫んだ。


 無情にも青いドレスの女性は何も止めたりしない。口元で何かを呟くように、その場所で舞うように。聖火は自分が自分でないような気がしてきた。今までの自分と、鏡に映ったものとを見比べた事を思い出す。心苦しいまま、不可思議な儀式はしばらく続いた。


 「夜月君……。」


 聖火はもはや誰のことも頭にない。あるのは目の前にいる夜月の事だった。彼は聖火に目もくれず、淡々と、同じような目で、その時を待っている。


    聖火の持つ炎の力が、自分の者になるその瞬間まで。



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