6章 明かりの無い夜に
聖火を助けるのに一週間はかかる。しかし、その間の彼女の安全はだれが保証するのか。リュウはすでに対策として、敵の戦艦の中に一人のスパイを送り込んでいた。
というより、元々戦艦の破壊を目的としてスパイを忍ばせていたのだが、彼に聖火を守るように指令を出したのだった。
「たった一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫です。彼なら。」
尋箭が訊くと、リュウはきっぱり答えた。
「必ず聖火さんを守ってくれます。」
彼女は思い出したように口にした。リュウの送り込んだスパイは彼女にとても信頼されているのだろう。今の三人には、そのスパイとやらに聖火の安全を守ってもらうことしか出来ない。
空を切る翼が空を駆ける。高音のエンジンが嘆くように、彼らは最初の基地に向かう。
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明かりの無い夜に。
聖火は一人、暗い部屋に連れてこられた。その夜は寝ることが出来ず、ただ座り込んでうつむいていた。
空中戦艦の中、小さな丸い窓から淡い月明かりが差し込んでいた。
聖火は立ち上がって窓際に立つ。月が柱のように伸びた雲に隠れたり、出てきたリを繰り返しながら、何かを伝えようとしている。聖火はそんな気がした。
「はやく、きて。だれでもいいから。」
声なき声を呟きながら。
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翌日。
コンコン。
聖火の部屋をノックする音が聞こえる。聖火は何も考えず扉を開けた。
「おはようございます。お怪我はございませんか?」
扉の先にはこの戦艦の兵士がいた。ホログラムではなく本物の人間だった。ただ、聖火はそのまま扉を閉めようとした。その扉を兵士は必死に止めた。
「大丈夫だって! 怪しい人じゃないって!!」
怪しかった。
「あの、部屋の中に入ったらちゃんと全部話すって!!」
兵士が部屋の中に入ろうとするのを聖火は部屋の外に追い出そうとする。
聖火は懸命に頑張ったが、最後は兵士がなんとか押し切った。兵士は部屋の中に入ると、扉に鍵をかけた。
「人捕まえてるのに鍵もかけないのかね。この戦艦の兵士はホント無能だな。」
お前が言うな。
聖火はキョトンとしている。兵士は構わず、ヘルメットを取り、床に座った。
「あれ、座らないの? てかすごいクマ出来てるよ! 昨日は寝れなかったのか。」
と言い、欠伸した。
「無理もないよな。あ、自己紹介しとくか。俺はカミヤ、ってあだ名なんだけど、短いからそう呼んで。この戦艦の中じゃ、カタカナ三文字の方がスパイだってばれないからさ。」
聖火がぽかんとしてうなずく。
「あ、あの、私……。」
聖火が名乗ろうとすると、カミヤはそれを遮った。
「聖火さんだよね。話は聞いたよ。いろいろ大変だったね。俺は君の味方の、味方ってところかな。とにかく、この一週間はここから出られないってことを伝えとくよ。でも、その間の安全は俺が保証するから安心して眠ってよ。一週間たったら夜月くん達が迎えに来る。飛行機に乗って来るから一緒に帰ろう。俺は君を守る以外にもやることがあるから、たまにしか様子を見に来ないんだけど、何か困ったことがあったらこのネックレスをあげるから、真ん中のボタンを押してよ。そしたら、なんとかなるさ!! じゃあ、俺はこの辺で。」
喋るだけ喋って、さっさと出て行ったカミヤという人物。その手にはピッキングの道具が握られていた。
「さて、伝説の刀を探しますか。」




