5章 救出の灯
世界を変えるのは君たちだ。
彼が言い残した言葉。ただ一人、世界の危機が去ることを信じ続けた者の言葉。彼は英雄として国から、あるいはそれよりも大きなものから、使命を受けた。決して成就すること無い使命を。
ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
救出の灯
夜月たち一行はリュウの働いている店に行くことになった。その店は荒野の真ん中にあり、真っ黒になった木造のボロ屋であった。
「ほんとにここかよ。」
健太が疑うようにボソッと言うと、どこからともなく鋭い視線が飛んで来る。
「そうです。」
そうは言ったものの、取って付けたような笑顔のリュウ。透かさず健太は謝った。
「でも、中は綺麗にしています。」
「うそだろ……。」
リュウの言葉を信じない健太。扉を開くと、口をあんぐりとあけて何も言わなくなった。
彼の目に飛び込んできた光景は、想像を絶するもの。
太陽のように強い光を放つ鉛色の天。遥か彼方まで続いているとまで思わせる奥行に、彼らのいるところは丁度中腹の辺りで、天井と床までかなりの距離があった。下を覗き込むとめまいがするほどだ。
その巨大な空間を埋め尽くすのは最新式の戦車に戦闘機、巨大な兵器など、異様な輝きを放つ武器の数々。この店が一体何なのか、健太は疑問を抱く。
リュウと三人は階段を下りていく。健太はリュウに訊く。
「ねぇリュウさん、この店って何なの?」
リュウは振り返ることなく、そのまま答える。
「私達はここにある武器を製造し、販売しています。この店は新設計された戦闘車両や大型の兵器を保管しておくための場所です。つまり、正確には、店ではなく倉庫です。」
「へぇ、それはすごいな~。」
健太も感心してため息をつく。しかし、新たな疑問が浮かんでくる。
「でも、なんでそんな人が、俺らの手助けをしてくれるんだ?」
それに対し、リュウは簡潔に答える。
「それは、作戦説明の時にお話ししたことと同じです。」
時はさかのぼり、夜月たちと龍人たちで集まっていた。彼らは聖火奪還について、リュウから作戦を聞いていた。その内容は、一週間以内に聖火の安全を確保することと、敵軍の戦術的軍事基地を破壊していくことの二つであった。
リュウは武器を販売しているため、通常の軍隊による戦闘はほとんど無視、というより稼ぎ時、になるのだが、今回のように店の周囲で完全武装して敵が増えてくると店をしていても意味がない。むしろ略奪の危険があるために排除するそうだ。
軍隊に攻撃するのだから、中途半端な攻撃では意味がない。リュウは敵軍を根絶するような作戦を考えていた。
フロアに降りて、リュウの後につく夜月たち。両側にある戦車の砲台が、彼らの頭上まで突き出している。床の影が光源の反射に紛れて眩しく輝いている。
ある戦闘機の前で、リュウは立ち止まった。彼女は振り返って夜月たちに紹介する。
TR-00
リュウが設計した戦闘機。理論上では現存する戦闘機の中で最高の性能を誇る。詳しいスペックは教えられないが、六人乗りの広々空間を実現している点でも優秀な機体である。
「この機体『ティアラ』を使い、敵戦艦を落とします。」
彼女はそう強く言い放った。その瞳は自信に満ち溢れている。尋箭と健太は彼女の力強さに気圧され、チラッと『ティアラ』の方を向く。『ティアラ』は白銀に眩く輝き、流線型の輪郭をより克明に表していた。設計をしたのが目の前にいる若い人なんて想像もつかないくらいの完成度であった。
「すげぇな、この飛行機……。」
健太が感嘆の声を漏らすと、すぐに反応した。
「でしょ!!」
「え!?」
「すごいですよね!!」
リュウだった。瞳をぎらぎらと輝かせて健太に迫る。健太はリュウの迫力に負けてのけぞる。それでもお構いなしにリュウは健太に完成までの秘話を語り続けた。
ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
「それでは、作戦に移りますか。」
先程までとは別人のように淡々と事を運んでいくリュウ。健太は小言を零す。
「めんどくさ……。」
「?」
リュウが健太を睨みつける。健太はいいかけた言葉を途中で切った。
「暇だから乗っとくか。」
尋箭は欠伸しながら、ティアラに乗り込む。健太も用事がなくなったので乗る。残っているのは夜月とリュウだった。リュウは発進の準備を進めている。夜月はその様子をじっと見ている。始めはリュウも気にせずに作業していたが、徐々に気になって来る。
「あの、もう乗り込んでもらっても大丈夫ですよ。」
リュウが声をかけても夜月は何も答えない。
「どうかされましたか?」
夜月は無言のまま、リュウを見ていた。特にこれと言った用もないが、夜月はぼーっとしていた。リュウも不快なわけではなかったが、気になったので話しただけだった。らちが明かないのでリュウは一言添えて作業に戻った。
「大丈夫ですよ。絶対に取り返しますから。」
その言葉を聞いて、夜月はティアラに乗り込んだ。
出発の準備はできた。警告音とともにティアラを乗せた床が浮き上がり、天井が六角形に広がっていく。夕焼けの光に照らされるティアラ。その機体はエンジン音に包まれて、一瞬のうちに飛び立つ。夕陽へと向かうその一点はやがて上空の藍色に進路を変えて、宵の明星のように瞬いていた。




