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勇者の大冒険(打ち切り)   作者: 鹿馬 真馬
16/22

4章 動き始める世界

 「今日はみんな早いのねぇ。」


 眩しい朝の光が差し込む保健室。保健野先生は窓から登校してくる生徒たちを見ていた。彼らは数人で、何やら走って来ていた。


「とても急いでるようねぇ。宿題でも忘れたのかしら?」


 保健野先生が笑う。その直後、保健室の扉が勢いよく開け放たれた。


「夜月!」


 そこに入ってきたのは健太だった。全速力で走って来たせいで息が上がっている。


「お前大丈夫なのか?」


 健太に訊かれたので、夜月はうなずいた。


 健太は昨夜、夜月が聖火の家の窓から出て行った後、聖火の両親に夜月がいなくなったわけを適当に言って、健太の家に帰った。自分の部屋に着いてから夜月の事が心配になって尋箭や龍人にも連絡を取ると、探しに行こうってなって、学校が集合場所になった。最初に集合場所についたのが優燈だった。優燈は欠伸をしていたが、ずっと正門が開いていたことを知っていて、後から来た健太たちと校舎に入ってみることにした。優燈が保健野先生も呼びに行こうと言ったので保健室を覗くと、夜月が居た。


と、昨夜の事を健太は夜月に話した。健太は一通り話して一息ついた。


「じゃあ、みんなは誰にも会わなかったんだ。」


聞き耳を立てていた保健野先生がコーヒーを淹れながら健太に訊いた。健太は首を横に振る。


「会ってないですけど、どうかしたんですか?」

「実は夜月君を助けてくれた人がいたの。」


それを聞くと健太は感心した。


「このご時世に珍しい人もいるんですね。」

「そうね。その人がいなかったら今頃大変なことになっていたかも。」

「でも、昨日のあの時間に学校の近くを歩く人っているんですか?」


健太は首を傾げた。学校の前には国道の脇にきれいな歩道が平行に伸びている。わざわざ薄暗い学校の前を通る意味が無いからだ。人それぞれとは言うが、不可解なことに変わりない。


「桜でも見てたのかしら?」

「そうかもしれないですね。」


 それから後は健太と保健野先生の雑談に変わった。夜月は昨夜の出来事を順番に思い出していった。聖火の部屋から飛び出して、空を飛んで、戦艦に乗って、聖火を救おうとして、救えなかった。詳しいことは思い出せないでいたが、戦艦から落ちて動けなくなった。微かにだが、女性の事が、夜月の脳裏を過った。夜月はその女性に何か声をかけられた。



           彼女を助けたいのなら

          あの荒野まで来てください


             「あの荒野。」


              そうです

         丁度あなたの家があった辺り



ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=


 朝礼が始まる時間になったので、夜月と健太は保健室を出て教室に向かう。廊下を渡っている時も、夜月は何かに憑りつかれたように上の空だった。

 夜月は自分の家のあったところが荒野になってしまってから、一度も訪れていなかった。新しい家が別の場所に建ったので行く必要がなくなったこともある。一応、尋箭の家も建った。

「なに考えてるんだ?」

健太が気になって訊いてみるが、夜月は何も答えなかった。


 一時間目が始まっても、夜月はほとんど集中する様子のないままだった。その様子を見て、後ろでこそこそ話が始まる。


 「夜月君ぼーっとしてるー?」

優燈が机に突っ伏す。

「朝からずっとあの調子だからなぁ。」

健太は教科書に落書きする。

「てか大丈夫なのか? 夜月、昨日ぶっ倒れてたんだろ?」

尋箭は教科書すら出してない。

「保健野先生が保健室から出したってことは大丈夫なんだろう。」

龍人はペン回しをしている。

「後で保健野先生のところ行ってみよ~。」

優燈は眠そうに言った。

「そういえば聖火も学校来てないよな?」

健太は落書きから手を離した。

「やっぱなんかあったんだな。」

尋箭は一人で納得していた。

「後で夜月のところ行ってみるか。」

龍人の手からペンが落ちた。

「そこうるさい。」

英語の先生が怒った。


 気怠い英語を終えた一時間目、休憩時間中に健太と尋箭と龍人が、夜月に昨夜のことを訊いた。夜月は覚えている範囲の事を三人に伝えた。三人は衝撃を受けて言葉が出なかったり、うるさく騒いだりと。


 最後は龍人の提案で、学校が終わったらそこに行くことになった。


 だが、尋箭だけは不満だった。彼は二時間目の授業中に保健室に行くと言って学校を飛び出して荒野に向かう。結局、夜月も次の休み時間に学校を無断で抜けて、荒野へ続く道を行く。

 健太と龍人はどうしようもない奴らだと笑みを零した。彼らは、三時間目の授業が終わったら学校を抜け出そうと決めた。


 時間が刻一刻と迫っていく中、突然グラウンドから悲鳴が聞こえた。


 「きゃーーーー!!!」「きゃー!!!!」「きゃーーー!!」


 クラスがざわめいて、先生も動揺する。何人かは廊下に急ぎ窓から様子を確認した。外には数百の兵士が剣を引っ提げて体操服の生徒に襲い掛かっている。

「あいつら恨みでもあんのか!?」

吐き捨てると同時に、健太と龍人は廊下を駆け抜けてグラウンドの敵中に躍り出た。昨日この学校に来た敵と同じ服装をしている。


「全く、しつこいから嫌われるんだ。」


 龍人は素手で兵士に殴りかかった。その拳は敵を貫通して、何もない空を捉えていた。


「はぁ!?」


 状況が飲み込めない龍人に対し、敵は間髪入れずに攻め立てる。龍人は敵の攻撃を見切ってかわしつつ反撃していく。だが、龍人がいくら殴っても蹴っても、当てた感覚が全くない。

 それは健太も同じだった。健太は半年前に手に入れた剣を振り回すが、刃がすべて空を切る。


 それでも、敵の兵士の数は確実に減ってきていた。

 残りは十数騎。龍人と健太はさらに攻勢をかける。こちらの攻撃が通っているか、定かでないが二人は引くよりもマシだと考えたのだ。


 健太が剣を振り抜き、先ず一騎。そこから片足を前に踏み出す。前から四つ、後ろから五つ。どうせ空ぶるような感覚なのだと彼は開き直って、必要最低限の力で前方の敵を薙ぎ払う。それは力まずに最速の剣筋を描いていた。さらに刃を返して、背後の敵を連珠のように切り抜いていた。一騎が遅れて切りかかる。それよりも速く健太は切先で貫く。


「本物の人間相手じゃ絶対にできないな。」


 龍人も複数を相手にするが、慣れない”空気”のような相手の感覚。隙を突かれて、目の前に斬撃が迫る。

「クソ!」

 何とかかわしたが頬に軽い切り傷がついた。それだけではなく、一撃を無理に避けただけで、次は無い。敵が振り上げた剣が日射に輝く。


 赤い一閃が見えたのはそれが振り下ろされた時ではなく、もっと早い段階だった。それは異様に輝く光。一度も見た事のない破壊力を持つ光。


 龍人は何とか体勢を立て直した。見ると、彼を囲っていた敵が消えていた。いや、背後に数騎いたが、尋箭と夜月が倒してしまっていた。


「お前ら、なんでここにいんだよ?」


 龍人は唖然とした。尋箭と夜月は何十分も前に荒野に向かっていたと思っていたからだ。彼らが学校に戻ってきたということは、夜月の言っていた女性の言葉は嘘だったのだろうか。


「やっぱり夢かなんかだったのか?」

龍人がそう訊くと、尋箭は笑った。

「いや、夢じゃなかったぜ。なぁ、夜月。」

夜月はうなずいた。すると、一人の女性がこちらに近付いて来る。透き通るような瞳に、聡明さが隠れることも出来ないでいる。静けさと共に歩み出た女性。彼女こそ、夜月を助け、荒野に来るように聞かせた本人であった。


「初めまして。私はリュウです。」


 彼女は四人の前に出てお辞儀した。健太と龍人はその容姿に目を奪われていた。が、尋箭は欠伸している。


「さっきまでとぜんぜんちげぇな。」

「うるさいですね。」


  ゴツン!


 リュウは尋箭の頭を殴った。平静を装っているが、本当は本当に頭に来ているらしい。表情が少し引きつっている。健太と龍人は思った

「人は見かけによらないな。」

と。


    「クシュン!!」


 教室で優燈がくしゃみした。

「だれか私のうおさしてるのかのぉ?」

ティッシュで鼻を噛んでそう言う。

「でも、これで。」

優燈は窓の外に目をやった。



           「鬼退治が出来る。」



「かもね。ひひひ。」

一通り独り言を言い終わった優燈は、うつらうつらと眠りについた。

「ずー。ずー。ずー。ー」


「んでも~、あてょひてょりたりにゃいかぁ~。」


 緊急に開かれた職員会議で、今週の学校の閉鎖が決定された。警察に被害届を提出し、捜査してもらうことになった。だが、世界はすでに取り返しのつかない状況になっていたのだった。

お疲れ様です。


 ここでお知らせです。

 この後の物語の展開ですが、二つに分岐します。そのため、ここからは小説二つでこの物語を続けたいとおもっています。題名は未定です。

 読んでいただいている方にはご迷惑をお掛けしますが、これからも応援していただけると幸いです。


 それでは。

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