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勇者の大冒険(打ち切り)   作者: 鹿馬 真馬
12/22

新章 もう一度始まる物語

半年って早いね。

「しかしあれだな。」

聖火と尋箭が机を挟んで向かい合っている。聖火は頬杖をついて、ため息をつく。

「あれって何ですか?」

「やっぱり、アレがあるよな。」

始業式から数日。六限終わりの終礼前。春の陽気、桜の花びらが空を舞う。クラスは和やかな雰囲気。この時期なのにもう仲が良い。というわけではなさそうだ。おのおの表面上で笑ってる。そんな中で二人、聖火と尋箭は前後の席になっていた。みんなにとってはそうでもないが、なつかしいアレの会話である。

「またその話ですか? 尋箭さんには分かりませんよーだ。」

「てめぇ馬鹿にしてんのか!?」


 クラスのざわめく声が聞こえてくる。

「あの二人、ホント仲いいよね」「ずっとしゃべってるもんね」「でも授業中は静かにしてほしいな」「ホントそれ、」「なんかうっとうしい」「さっさとつきあっちゃえ」「俺もあれだけ女子と話せたらなあ」「女子と喋りたいとか、わら」「黙れキモオタ」「嫉妬」「シャーボンダーマー飛んだー、」「そうか、解った。だからプラスかけるマイナスはマイナスになるのか!」「屋ー根ーまーでー飛んだー、」「おい、富士山の物まねしろよ!」「おい、やれって」「……。ふーじさっ!!!」「あははひゃ!」「これだから低脳どもは……」「屋根まで飛んでーー」「あんなのが同じ人間か……」「二軒隣に抹茶パフェのおいしい店が……。」「ゴクリ」「今度行こうね?」「コク」「抹茶苦手なんだよー。」「キッ!」「あ、すいません……。」「最近詩を書いている。」「へえ、聞かせて!」「『あなたは世界一美しい』」「キモい」「今年のクラスはどうだ?」「かわいい女子がいないな」「たしかに。それにうるさいやつが多い。」「非協力的な態度をとりそうなやつばっかだな」「去年のクラスが良かったー」「ホント、静かな人しかいなくてつまんない」「このクラス嫌だな」「はじけて、消えた。」

先生が遅いので立ち上がる生徒もちらほらと。

「先生遅いな。なぁ、夜月。」

健太が訊くと、夜月はうなずいた。

「なんか、桜見てると去年の事を思い出すよな……。」


 あれから半年経った。夜月の家は、元あったところとは違うけど建った。健太の両親はジェドージァプトから解放されて、尋箭の家は新しいのを買って、聖火の魔力も元に戻って、一件落着。ただ、健太のゲームは壊れたまんまだ。おかげで新作の携帯ゲーム機を買ってもらった。学校には持ってきてないが。夜月は廊下の窓から見えるグラウンドを眺めてた。

「だからアレはこうなんだよ!!」

「そんなこと聞いたこと無いですけどー!! アレってなんですかー?」

「むかつく喋り方しやがって!」

「あーそれはどうもすみませんでしたねッ!!」

尋箭と聖火は相変わらずもめている。健太は端から見てて呆れていた。

「またあいつら。しかもまたアレの話かよ。」

教室中に響くような声で喧嘩しだした。

「恥ずかしくないのかねぇ。」「若いって、ええですなぁ。」

「って、誰だよ。」「ども、龍人です!」「ども、優燈です!」

夜月と健太の傍らに、土田(つちだ)龍人(りゅうと)滋風(あさかぜ)優燈(ゆうひ)がいた。龍人が優燈の頭をぺしゃりと叩く。

「いた~い!」

「なんでお前がいるんだよ!」

「だって龍人と一緒が良かったも~ん!」

「お二人とも仲いいなー。」

健太が言うと龍人はずっこける。

「どこがだよ!」

「見事な掛け合いが。」

龍人は深いため息をつく。

「いいか、こいつは勝手にうちの住所を調べてプレゼントを置いたり、家族旅行の行先で待ち伏せしてたりするんだぞ?」

その話に、健太も驚愕する。

「そ、そいつは……。ヤバいな……。」

「健太く~ん。今度は君の番ね!!」

優燈が笑顔で振り向いた。

「いや、遠慮しとき……」

「じゃあ、明日の午前二時に学校に来てね!!」

「はあ、嫌……」

健太の言葉を遮るように龍人は彼の肩を叩いた。

「良かったな!」

「良くねえよ!! 夜月もなんか言ってやってくれよ。」

急にふられた夜月は黙って見過ごした。

「はい決まり~~!」

「えぇっ!!」

「ガンバー!」

優燈と龍人が戻っていく。

「ちょ、待てって!」

「良かったな。」

「良くねえよ!!」

「野々白君、静かにしなさい!」

担任の先生がいつの間にか来ていた。そしていつの間にかみんな静かにしていた。健太は一人大声を出していた。

「はい。すいません。」

その後にくすくす笑いが起きたことは言うまでもない。



ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=



 「あーあ、今日はいいことないなぁ。」

終礼が終わると、一斉にざわつくクラスの中で、健太はため息をついた。

「ん、そういえば尋箭と聖火はどうなったんだ?」

二人の方を振り向くと、二人とも机に突っ伏している。

「仲いいなぁ。」

「ほら、終礼終わったよ。起きなさい。」

まずは尋箭を起こす。

「ん、よし、帰るか。」

寝ぼけながらひょいと立ち上がった。

「すやすや。」

しかし、聖火は相変わらず寝ていた。

「おい、聖火起きろ!」

尋箭が聖火の頭を小突く。起きない。

「あれ、どうしたんだ?」

心配した健太と夜月がそこに向かった。

「陽日さんが起きないの。大丈夫かしら……。」

先生の心配に尋箭が一喝する。

「大丈夫なわけないだろ!! 早く保健室の先生連れてこねぇと!」

「ここです。」

夜月が連れて来ていた。

「とりあえず保健室に運びましょう。」

こうして聖火は保健室に運ばれた。

 両親と連絡がついて、すぐに迎えに来てもらい、眠ったまま家に帰った。学校の校門前、三人は車を見送っていた。ブロック沿いに伸びた真直ぐな道の突き当りで、車は左に曲がった。健太が頭を掻く。尋箭が腕を組む。夜月が足元に視線を落とす。桜が、少し早めに渦高く積もっている。しばらく誰も話さなかった。



ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=



 部活が終わって、夜月と健太は帰り道を歩く。

「聖火のこと、心配だよな。」

夜月はうなずいた。

「やっぱり、魔法って大変なのかもな。……あ!」

ここで健太が気付く。

「杖を学校に置きっぱなしだ!」

「取られてないか。」

「あれ無くなったら大変だろ、急いで取りに行こう!」


 健太に続いて夜月は来た道を引き返した。夕暮れの空はどこか寂しさを抱えて、昨日の方向は赤味が差すばかり。そこには紫の雲が並んで浮かんでいた。 

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