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勇者の大冒険(打ち切り)   作者: 鹿馬 真馬
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五章 俺の友達の友達の友達の友達も、俺の友達

 「夜月の訊いた話だと、真直ぐ行ってりゃ着くらしいけど。これか?」

尋箭もようやく悪趣味な城に着いた。モンスターがバタバタ倒れている。

「どんだけ暴れたんだよ。」

そうしてるうちに、彼も最上階に来た。しかし、そこに夜月たちの姿は無かった。

「あれ? ここじゃねえのか?」

尋箭は腕を組み考えた。が、分からない。実は、夜月たちは隠し階段を見つけて、最上階の上にある頂上に来ていた。そこは屋外で、ピラミッドキャッスルのテッペンだった。下からは尖って見えたが、意外に広くて、グラウンドほどはあった。


 風の吹き抜ける頂上の端に、一人佇む黒い影があった。黄金に輝く太陽に、ジャドージャプトの灰色は金色へと変化し、漆黒のマントなびかせる。あいつこそ……。

「ジョルトネルガーか!?」

健太はそう唸って、切りかかった。しかし、彼が剣を振り終えた時、そこには何も無かった。かわされた。

 態勢を立て直そうとした彼は、背後から脅威的な殺気を感じ、体が固まった。

「残念だったな。」

男は表情を一つも変えず、淡々とした口調で話す。

「俺は今までのクズとは次元が違う。」

その時、夜月の表情が変わった。その目はジョルトネルガーを凝視していた。

「時間が無いんだ。無駄な戦闘を行いたくは無い。」

ジョルトネルガーがその場を後にしようとした時、妖精と聖火の近くにあったはずの夜月の姿が一瞬にして消えた。かと思えば、ジョルトネルガーの背後に突如として現れ、会心の一撃を繰り出た。

「馬鹿な!」

ジョルトネルガーに間一髪でかわされたが、手に持つホウキがそのマントを捕らえている。ここにいた全員が全員、心に凍てつく矢を打ち込まれたかのような恐怖かつ殺気を感じた。ジョルトネルガーなど比べものにならないほど強く、何倍も上をいっていた。その殺気を纏った夜月が再び攻撃しようとした時、四方から敵が四人、同時に現れ、夜月以外の三人が囲まれた。

「お前たちの相手は四天王がする。俺は一足先にアルレイに行き、征服しておこう。」

ジョルトネルガーはそう言い残すと、何と浮遊し、ワープホールのある軍事基地に向かって飛んでいった。後を追おうとする夜月だが、四天王の一人が立ちふさがる。夜月が押し通ろうと攻撃するが、すべて受け止められた。

「我が名はヴァル=アステカ。どんな攻撃をもってしても、我が守りの前には無に等しい。」

彼の言う通り、これは長期戦になりそうだった。夜月以外の三人には、敵も三人。健太には頭脳の『ラフィンクス』、妖精には俊足の『ラモス~インカ』、そして聖火には魔法の『グレイル』がそれぞれ立ちはだかった。


 攻める夜月は攻撃の威力よりも技術が高い。しかし、何度も防がれ、焦りから冷静さを失い、力だけでヴァルの守りを崩そうとしていた。もちろん、そんなことはできるはずもなく、夜月の息が切れてきた。その目はただただ、ヴァルを睨むだけである。

 「勝てそうにないな……。」

そう力なく呟いたのは聖火だった。彼女の魔力はすでに底を尽きかけていた。グレイルの繰り出す魔弾を、攻撃魔法の無い聖火はバリアで跳ね返して攻撃していた。しかし、グレイルは自分の魔法なら吸収して、再び使用することができるのだ。聖火がそのことに気付いた時には、グレイルの魔力はほとんど最大で、聖火の魔力だけが減っていたのだ。

 「ちょこまか逃げんなや!!」

一方、ハエたたきで逃げるゴキブリを倒そうとするが全く当たらずイラつくオバさんのような妖精は

「誰がオバさんじゃっ!!」

はい、妖精の攻撃はすべて強力な魔法だが、それは非常に動作が遅い。俊足のダモスにあたるはずもないが、妖精は気にせず打ち続けている。それも冷静さを失っているためである。

 「なんで当たらないんだ。」

健太の攻撃はすらすらとかわされていく。

「君の攻撃のパターンは読めている。」

頭脳のラフィンクスは健太の戦法を見抜いていた。次にどんな攻撃を仕掛けてくるのか、彼は予測し、実行できる機動力も持っていた。

 それぞれが相性の悪い相手と戦っている。これこそ敵の策略だったのだ。ラフィンクスは戦闘中に、この作戦の説明を健太にしている。

「つまり、こういうことだ。」

「話しなげえよ。」


 さらに、戦闘は続く。四人の疲労はピークに達する。彼らの戦いに勝利は見えず、時間だけが過ぎていく。だが、それも終わりを迎えようとしていた。


 「でりゃあ~~!!」

「うがうぁ~~!!」

心が潰えそうな時、やっぱり頼れる仲間がいた。

「尋箭、ただいま参上ッ!!」

尋箭の登場とともに、床ごとヴァルは吹っ飛んでいった。尋箭が突き破ったところにちょうど立っていたのだ。このままなら五対三、形勢逆転のはずなのだが、今は違う。

「夜月、あいつを追え!」

健太が叫んだ。夜月は分かったと言うようにうなずき、道なき道を、つまり空中を、全速力で駆けて行く。

「と、とんでる!?」

健太は顎が外れそうなほど驚いたが、本当に夜月が飛んでいるわけではなかった。

「ありがとう、聖火。」

夜月は呟いた。それが届いたように、杖を挙げていた聖火は、その杖で夜月を示す。

「あなたの道を作ることが、私の役目ですから。」

聖火は息を整えた。彼女は本当に夜月の道を作っていた。バリアで基地まで一直線の道を。もちろん、敵はただそれを見ているだけではなかった。

「行け!」

ラフィンクスの合図と同時に、ダモスは夜月を追い、ラフィンクスとグレイルの同時攻撃が聖火を狙う。健太がラフィンクスの前に立ち塞がり、グレイルの魔弾を尋箭が跳ね返した。

「君に勝算は無い。」

「だからなんだよ。」

ラフィンクスと健太が一進一退の攻防を繰り広げていると、時たま流れ弾が飛んで来る。

「あ、あぶねっ!」

「おお、わりぃ!」

先ず第一にグレイルと尋箭の野球的な戦闘風景。バリアを張り続ける聖火を尋箭は守り続けているのだが、グレイルは魔弾ばかり飛ばして来るので、尋箭がモップで打ち返しているのだ。おかげで頂上はいたるところ陥没している。第二に、妖精がダモスを追って魔弾を乱射するので、物凄いのが飛んで来る。

「おい、あぶないだろ!」

健太が注意すると、妖精は不機嫌になって健太に魔弾を飛ばす。うわ! と、命中すると思いきや、見事にダモスにあたった。

「うがー。」

そこに妖精は魔法精製砲弾流を放って、ダモスを倒した!

「妖精、夜月の後を追え!」

健太がラフィンクスの攻撃をかわして指示した。妖精はうなずいて、物凄い速さで飛んでいった。残されたのは健太、尋箭、聖火とラフィンクス、グレイルだった。

 健太とラフィンクスは互角の戦いをしていた。やはり高性能な武器を持っている健太の方が有利だった。しかし、ラフィンクスはその差を埋める如くのすさまじい能力を発揮する。一瞬でも隙があればあっという間に倒されてしまいそうだ。健太がそう思った時、グレイルが魔弾の軌道を変えてきた。

「なっ!?」

間一髪で交わす。だが、ラフィンクスの攻撃はかわせない。強烈な一打が、健太を地に伏させた。

「健太!」「健太さん!」

尋箭が叫ぶ、その上空から新たな魔弾が次々と降って来る。

「人の心配してる場合かぁ!?」

「くそ!」

グレイルの魔弾を弾くのに手いっぱいの尋箭をかわして、ラフィンクスは聖火に攻撃を仕掛ける。聖火は咄嗟に、夜月の道にしたバリアに加えて、自分の正面に新たにバリアを展開した。

「も、もう魔力が……。」

ラフィンクスの攻撃の前に、バリアは何とか衝撃を緩めたが、聖火はその場に倒れた。

「聖火!」

尋箭が魔弾の流れる隙をついて聖火を助けに行こうとすると、

「じゃあ、こっちは?」

グレイルが健太に向けて魔弾を放つ。

「!?」

健太は残りの体力をすべて出し切って、紙一重でかわして、立ち上がった。が、今度打たれたらかわせそうに無かった。尋箭の動けない姿を見てか、グレイルは高らかに笑う。

「あはは! どうする? 昔からの親友を助けるか、さっき会ったばかりの『他人』を助けるか。」


 聖火を見下して、ラフィンクスは勝利を確信していた。止めをさそうと、腕を振りあげる。

「君に、せめて自分を守る力さえあれば、良かったのにな。」

その言葉に、聖火は僅かに意識を取り戻した。

「……ありますよ。」


 「どっちも助けるまでだ!!」

尋箭は大声をあげた。そらにいるグレイルに突き刺すように鋭く、鈍い声を。

「ならやって見な!」

狂気のグレイルの手から、特大の魔弾が放たれる。


 「自分を守る力ぐらいは……!!」

聖火は静かに、けれど確かに叫んだ。ラフィンクスの余裕に満ちた顔が一変する。そして瞬時に距離をとるが、聖火の周りを熱気が渦巻き、突然、紅蓮の炎が聖火を包み込み、ラフィンクスを飲み込もうと、煙をも燃やし尽くす勢いで膨れ上がった。それは空中にいるグレイルも例外ではなかった。

「しまった。」

グレイルの姿は消えたが、魔弾は健太に向かって飛んで来る。尋箭はモップを投げつけて、魔弾を破壊した。健太はあの炎に恐れ慄き、動けなくなった。それほどの炎だった。しかし、どんな炎もいつかは消えてしまう。今にも、ラフィンクスを飲み込もうとした直前で、聖火の魔力が本当に底を尽き、一瞬にして、ろうそくの火が吹き消されるようにして、消えてしまった。

「もう、だめ……。」

辺り一面、炎がその体内に溜め込んでいた煙を吐き散らして濃い霧がかかっていた。だが、聖火は背後からとてつもない魔力を感じたことで、自分が今置かれている状況を把握することができた。

「でも、動けないよ……。」

「これでバラバラになれ!」

グレイルが叫ぶ、前にはラフィンクス、後ろにはグレイルの巨大な魔弾が、聖火を挟み込もうとしていた。恐怖で聖火はせめて、と目を伏せた。鳴り響く轟音が、煙を巻き上げて一気に近づいて来る。

 今になって我を取り戻した健太が助けに行こうとするが、まるでスローモーションのようだった。煙が一気に消え去り、見えたものは、蹴り飛ばされたラフィンクス、それから、魔弾を殴りつける尋箭の姿だった。聖火は助かったのだ。しかし、尋箭はかなりの深手を負った。それでも、尋箭は立ち塞がる。

「武器無しで、なに考えてるの?」

彼をあざ笑うかのように、グレイルは宙に浮かんでいき、見下すように言う。

「その子を守る価値があるの? あんたから見て、ただの『他人』じゃない。『他人』を助けるためにそこまでするの、ばかじゃないの? あたしには理解出来ない。」

「で?」

尋箭は、敵を睨みつける。

「人から見れば、俺らは『他人』だ。今まで喋ったこともねえし、何が好きかとか、趣味はなにかも知らねえ。」

「じゃあなんで、その子を助けるのさ?」

グレイルの問いに、尋箭は答える。


「お前らに理解されなくてもいいさ、俺には昔から決めてる事があるんだ。

           俺の友達の友達の友達の友達も、俺の『友達』だとな。


 それに、ちゃんと最終兵器を持ってるしな。」

尋箭は口角をあげて、隠し持っていたシャーペンをグレイル目掛けて投げた。

「こらっ! あぶないでしょ!」

グレイルはかんかんに怒った。

「シャーペンは人に向けて投げるもんじゃない! 刺さったらどうするのよ!」

と言いつつ、自慢のためにペン回しするグレイルであったが、健太は「あ、察し」

尋箭はポケットからボタンを取り出し、ポチ 

           ぴしゃーーーーーーーーーーっん!!!

と、感電死すれすれの高圧電流が流れて、グレイルは黒こげになった。

「先生にやったら怒られるだろうな!」

と、笑い飛ばす尋箭だった。

 かくして、頂上での決戦は幕を閉じた。しかし、本当の戦いはここから始まる。


 「なあ、夜月。」

ワープホールを前にして、妖精は静かに訊ねた。

「夜月は、今元気?」

夜月は、うなずいた。

「そうか、じゃあ、ウチも大丈夫や!」

そう笑う妖精。さっきまでと全然違うのは、あまりに静かなせいだろうか。

「あのさ、夜月。」

「なに?」

「これ終わったら、ウチどこに住も。」

「さあ。」

「かんがえとかなな。元の世界には戻られへんのやし。」

妖精がうつむくと、ワープホールの変な音が少し聞えて来る。

「あのさ」

「ん、なに?」

「これが終わったら、いろいろ話したい。」

「ほー。夜月から誘うとは珍しい!」

「いろんなことがありすぎて、混乱してるから。」

「いいよ! まあ、とりあえず、これを片付けてしまおか!」

二人は、ワープホールの前にいた。最終決戦に向けて、心の準備をして。

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