カノジョだけがセイシしたセカイ
カノジョだけがうごかない。
信じられないことに、まるでカノジョの時間だけが止まったかのようにプッツリと、トツゼンうごかなくなってしまった。
さっきまでみんなといっしょになってはしゃいでいたのに。さっきまでみんなとケラケラ笑いあっていたのに。そんなさっきまでの時間がウソだったかのように、カノジョはうごかなくなってしまった。セイシしてしまった。
ピクリともしないカノジョをボクはただただ見つめることしかできない。そうしていることでいつかカノジョがまたうごきだすんじゃないかって、そんな気がして。でもそんなボクの気持ちをあざ笑うかのように決してカノジョがふたたびうごくことはなかった。
心がドクドクとさわいでいる。ボクは多分あせっているのだと思う。このままではまずいことをボクは知っているのだ。
ボクは助けをもとめるようにまわりの人たちに目をむけた。けれどかれらはボクとカノジョを見ては周囲の人たちとヒソヒソおしゃべりをするばかりで、だれもボクたちに近づこうとはしない。いや、かれらは知っていたのだ。今ボクたちに近づいてはいけないのだと。もしボクたちに近づこうものならメンドウなことになりかねないことを。
絶望した。このセカイのどこにもボクの味方はいないのだと。
カノジョはこんなにもそばにいるというのに、ぬくもりはどんどん遠くへ行ってしまう。
「おい! いいかげんにしろ!」
いよいよしびれをきらしたかれらはボクをどなりはじめた。
「いつまでそうしてるつもりなんだ! さっさと片付けろよ!」「そうだそうだ! すこしはオレたちのことも考えろ!「さっさと終わらせなさいよ!」
最初の一言を皮切りに、せきを切ったようにかれらはつぎつぎとボクをののしりだした。
なぜこうもボクだけがせめられないといけないのか。なぜこうもボクだけが救われないのか。つい自分のフコウをのろってしまう。
けれどかれらの言うことには一理あるのだ。たしかにいつまでもこうしているわけにはいかない。ケリはつけないといけないのだ。
なごりおしくはあるが仕方あるまい。もうあきらめるよりほかはないのだ。ダイジョウブ。今回はダメだったけどボクにはまだ次がある。
さあ全てを終わらせよう。
ボクはカノジョから目をそむけ、ふりかえることなく、そして告げるようにこう言うのだ。
「だーるーまーさーんーがー――」
「はいタッチ。またコウタくんのオニね」
ミクちゃんは笑顔でボクにそう言った。