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魔王、はじめての拉致監禁《後編》






「魔族の魔王ってのはこうも間抜けなもんかねえヒャハハハハハ!」


「俺たちにかかれば魔王なんざこんなもんよ」


「カーッカッカッカ!!!」




捕まっちった☆




うーん。どこから騙されてたんだろう。


ロウェインから? それともリンから? それとも、こいつら単独で?



頭がぼーっとしてうまく働かないが、回想に努めてみる。





・ ・ ・



一時間程前。


宿屋の一室で俺とリンは酒を片手に楽しく歓談中だった。


終始和やかな時が流れ、リンを疑っていたのを後悔し始めた頃、何だか物凄く眠くなってきた。


そんでリンが御手洗いと言って部屋を出て行った後から……記憶が曖昧に……そうだ、あいつらが現れたんだっけか。





『ヘッヘッヘー』


『グヘヘヘヘー』


『カーッカッカッカ!!!』


死亡フラグ臭がプンプンする奴らが急に部屋のドアをぶち開けて入ってきた。三人とも人間である。



『なんだお前ら』


冷静に俺が問いただすと、三人組は揃って下卑た笑みを浮かべ、


『お前の可愛い彼女は俺たちが頂いた』


『グヘヘヘヘー』


『カーッカッカッカ!!!』



『あーれー』


リンの声も聞こえてきた。ここらへんの記憶はちょっと曖昧だ。



『貴様等……この俺が、魔族の王と知っての狼藉か?』



威圧感たっぷりで相手を牽制する俺。



『なるほど。聞いていた情報の通り。最初聞いた時は半信半疑だったが……フフフ。やはりお前が魔王か』


『ほう? 知っての狼藉か。面白い。貴様に魔王の恐ろしさ……しかとその身体に刻んでくれよう。我は終焉を望むもの。死の極点を目指す者……唯一無二の終わりこそを求めるゆえにおっぱいの求道に曇りなしーー幕引きの鉄拳砕け散るがいい……ッ!!』



酔ってると厨二度が上がるんです俺。



『おい、お前ら。まだ確証はないが相手はあの魔王だ。全力で行くぞ』


『おうよ』


『カーッカッカッカ!!!』


三人目、お前人間だよな?



『ククク。貴様等に悲しいほどの力の差というものを教えてやる。リン、待っていろ。すぐ助ける』





・  ・  ・





そんで、今の状況に至る。


あーやっぱりさっき飲み過ぎたな。


体の節々が痛いわ。



あーあ。酔ってたせいで真の力の1%もだせなかったわー。



「んで、ここはどこだ?」



身体は縄でぐるぐる巻きにされており自由に動けないが、辺りは薄暗く、大きな建物の中らしいことは分かった。



「あ、貴方も捕まってしまったんですね」



「ん? ああ。キミも捕まったのか」



女性の声がしたので頑張って振り返ってみると、丁度同じ年頃くらいの女の子がいた。俺と同じく縄で縛られている。



「う、ううう……」


「こらっ、泣かないの! お姉ちゃんが付いてるから」


女の子の後ろにはその弟と見られる少年がべそをかいていた。





薄暗くて二人の姿はあまり窺い知ることはできないが、女の子の方も弟と似たような表情をしているだろうことは想像に難くない。


とりあえず、会話でもして気でも紛らわしてやるか。


俺ってばなんてイケメン。



「なあ、捕まってるのって俺らだけなのか?」



「いいえ、ほら、あそこに」



女の子が指──は指せないから首をうんしょうんしょと向ける。



俺もそちらへ顔を向けると、なんとまあ、三十人ほどの────?



「あれって」


「ええ、魔族の方達です」



???



この子は、どう見ても人間、だな。そしてその隣の弟も人間。


人型の魔族という可能性もあるがそれは無いと俺の直感が告げている。


なんせ魔族の気配がこれっぽっちもしない。


まだ短期間であるものの、魔族の巣窟であるあの城で暮らしていたら魔族特有の魔力なんてありありと分かってしまう。



それより、この子らは魔族に対して嫌悪感のようなものはないのだろうか。



「トリノキ町に住む大半の魔族の方達が捕まってしまったようです。でもまだ大きな怪我をしている方はいないようですね……よかった」



それどころか、心配まで。





「人間で捕まったのは、私達だけみたいですね」


「あのさ」


「はい?」


「キミ、魔族が嫌いじゃないの?」


この世界の人間は魔族のことを本能的に嫌っているとリンから聞いた。


だから戦争に負けた魔族は迫害され、殺されることなんて日常茶飯事だとも聞いた。


そして、人間と魔族が分かり合える日など未来永劫来ないとも。


なのに、この子は……。



「確かに、昔から人間と魔族は忌み嫌い合い殺し合ってきました」


それを聞いた魔族の住人達の顔色が暗くなる。まあ辺りは薄暗いんであんま分からんけど。



「けど、大人達から聞いていた魔族と、この方達は全然違いました」



力強く囁いた女の子の表情は、今のこの暗く重々しい雰囲気を飛散させるほどの輝かしいものを秘めていた。


若干斜めに構えていた俺でさえ、こんな暗い場所なのに思わず眩しいと感じてしまうほどに。





「あの方達は両親のいない私や弟のことを昔から可愛がってくれました。井戸の水汲みや、毎日の食材の調達、私一人でどうすればいいか困っている時に、何時も手をさしのべてくれました」



微笑みさえも浮かべ、朗々と語ってゆく。



「魔族全体があの方達のような心穏やかな種族かどうかは私には分かりません。でも人から聞いた情報ではなく、私自身の目で確かめようと思うんです。この世界を歩き回って」


「そして、人間と魔族が共存できる術を見つけたいと思います。それがお世話になったあの方達へ、私のできる恩返しだと思うんです」




語り終えた彼女は少し頬を染めて「お恥ずかしい」と、俺達の視線を受けていた。



え、ええ子や……ええ子やでえ。


あかん、お兄さん少し感動しちゃった。


世界を旅するって並大抵のことじゃないぞ。RPGの勇者じゃあるまいし。



少し離れた場所にいる魔族の奴らも感動したようで、感極まって涙を流す者も少なくない。


弟くんの方も姉の言葉を聞いて表情が明るくなっていた。



「何だか、壮大な夢だな。でもキミならできそうな気がする」


「あ、ありがとうございます……。こんなこと、真面目に聞いてくれる人がいなくて、私……」



すいませんそんなに真面目には聞いてませんでした。貴方の眩しさに目がムスカみたいになってました。



所で、何か一つ忘れているようなことが……。




「ハイハーイ、感動タイムはおしまいでえええす!!!」



穏やかな時はそう長くは続かなかった。


気持ち悪いダミ声が聞こえたかと思ったらまたさっきの三人組が戻ってきた。




今度は三人組だけじゃないらしい。


鉄製の10メートルはありそうな高さのドデカイ扉がギギギと開き、ぞろぞろと頭の悪そうなご一行が入場してきやがった。


そして、扉が開いたことで辺りが鮮明になった。どうやら此処はドラマでよくある廃工場のような施設であるようだ。




それより、



すげーわ。北斗の拳の雑魚敵みたいなド派手な風貌の野郎共がうじゃうじゃうじゃうじゃと、よくもまあ、こんだけ集めたもんだ。





だがな?





それ、死 亡 フ ラ グ で す か ら (笑)




俺の長年の経験則により、この後の展開はこうだ!!!



鉄製の扉は完全施錠され逃げ場無し。



世紀末野郎共が発情。女の子が襲われそうになる。



俺「やめろおお!!お前ら!!!やるなら俺をやれえええええいいいい!!!!!」


野郎共「ウホッ」



女の子「キャーーー!!!助けてーーー!!!犯されるううーーー!!!(この男の人が)」



俺、隠された真の力が目覚める。


ドガッ☆ボゴッ☆バキッ☆ハンマッ☆バキッ☆



女の子「キャー!!ステキー!!」



俺の部屋。


俺「愛してる…」


女の子「私も…」


俺「なあ」


女の子「なーに?」


俺「おっぱいを…」


女の子「え?」


俺「おっぱいを……くれないか?」


女の子「嬉しい…。受け取って?」



ボイン☆




エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイヤアアアアアアアアアアイヤアアアアアアアアアア


Fin.








ふう、満足満足。



「さーて、気持ち悪い魔族共はこれで全部かな」



俺が妄想に満足していたら、世紀末野郎の一部の集団がまた新たな魔族を連れてきた。


新たに連れてこられた魔族は余計に痛め付けられて捕らえられたようで、中々酷い有り様だった。



人間もヒドイことすんだなー。



まあ俺なんて人類滅亡なんていうド外道なことを企んでいるんで人のことは言えないけども。



「な、なんて酷いことを……」


「ご、ごめんな……アーシアちゃん。せっかくキミに庇ってもらったのに」


「そんなこと言わないで下さい……私が……私の……せいでこんなことに…… 」



へえ、あの子アーシアっていうのか。



「ハーイハーイ!!! ちゃっちゃとこのゴミ運んでねー。早いとこ業者に引き渡したいんでね」



乱暴に俺の近くへと魔族を連行し終えた奴らは扉から離れ、去っていった。


残るのは俺を捕らえた三人組のみ。


ニタニタと下卑た笑みをアーシアに向けていた。



な、なんて分かりやすい奴ら……。





なるほどなるほど。


つまり俺がここでアーシアを救ってフラグ建設ですね分かります。



幸いまだ扉は開いたままだ。そして敵はたった三人。もう少し時間を稼いで世紀末野郎共がこちらに戻ってくる様子がなかったら、縄をどうにかしてほどいて、奴らを───




バチバチバチッ。縄がぶち破れる音がした。



え?



アーシアさんが立ち上がった。そして、その右手には立派な剣が握られていた。



え? どうやってだしたの?



というか、この子、何者……。



「魔族の皆さんを一ヶ所に集めてくれたのは私にとっても好都合です!!」


凛とした声で言い放ち、剣を三人組へと向ける。


さっきまで暗闇の中だったのでアーシアの容姿はぼんやりとしか把握出来なかったが、こうして明るい中しっかりと見ると彼女はとても美しい容貌をしていた。



まず目を惹くのが日の光を浴びて真珠のように輝く銀色の髪。少し痛んでいるものの、むしろそこがいいと言わざるを得ないくらい美しい銀色の髪。ロングたまらん。


そしてェェェその凛々しく引き締まった騎士のような表情の中で垣間見える可憐で幼い顔立ちィィィ。


さらにィィィ華奢な体躯に彩られる雪のような美しい肌ッ!!


生活に困っているのか、服装は汚れた茶色のワンピースという少々残念な格好ではあるが、彼女の美しさが衰えることはないから驚きであるッ!!!



「ちっ、こいつはさっきも戦ったが中々厄介だ。オイ、あいつら呼んでこい」


「ウス」


あー俺が脳内で語っている内に三人組の中の一人が扉の外へと駆け出して行ってしまった。


な、なんてこった……。


アーシアさん……キミ、戦えるんだったらせめて、もう少しだけ待って欲しかったぜ。





「わりーがあいつらが到着するまではココは閉じさせてもらうぜ」


そう言った直後、鉄製の巨大扉はまた閉まってしまった。辺りが昼間なのにあっという間に暗くなる。


三人組が二人組になっても奴らはニヤニヤ笑いアーシアと対峙する。


二人組の容姿? ああ、死亡フラグがビンビンの奴らのことなんてどうでもいいだろ?


それよりも、俺がカッコヨクあいつらを倒す様を描写する方が一段と有意義であろう!!



「先ほどは不覚をとりましたが、今度は負けません!」


「カーカッカッカ!!!」


「わりーな。ここは俺らの陣地なんでな。そう簡単にはいかねーよ」


二人組の、人間かどうか疑わしい言語能力の持ち主の方が手を地面に押し付けた。


直後、巨大な魔方陣が出現。あっという間に敵勢力が増えてしまった。



「魔族……?」


驚くことに奴が召喚したのは十五ほどの人間とは到底思えない生物達。各々が爬虫類や鳥類の特徴をごちゃ混ぜにしたような不気味な身体の持ち主。


まあ、つまり人間が魔族を召喚しやがった。



「くっ……この方達、正気を失っている……」


そう、どいつも両の目が真っ赤に妖しく輝いており、口はだらしなく開けっ放し。その口からは知能の欠片のない雄叫びが飛び出す。とても正気とは思えない。


魔族なんてそんなもんだろうとは思うんだが、俺が城で見てきた奴らはどいつも人間並みの知能を有していた。


この世界の魔族はゲームで出てくるようなモンスターとは少し違うのだろう。


だからこの状況は少し謎であった。





「この方達に何をしたんですか……!?」


激しい怒気を孕んだ声を上げるアーシア。


会って間もないが、この少女がこんなにも怒りを露にするのはよっぽどのことなんだろうと自然に思った。



「ちょーっと玩具に細工をしただけさ。てか、お嬢ちゃん、こんな物の心配なんかしてるんだ?」


「───!!」


あ、ぶちギレた。



そう思った瞬間、アーシアの姿が消えた。



そして、瞬きをした時には二人組はどちらも地に沈んでいた。



「お、おお」



アーシアさんTueeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!!



俺出番NEeeeeeeeeeeee!!!



しかし、召喚された魔族は消えずに残っているようでアーシアに襲い掛かって行った。


「くっ……」


「お、お姉ちゃん!!」


「アーシアちゃん!!」


弟と魔族達の悲鳴が響き渡る。


操られた魔族には手を出しずらいのか、アーシアは逃げの一手に追われてしまっている。やばいな。



さらに、運の悪いことに扉の向こう側より大きな物音。


あの世紀末野郎共が帰ってきやがったのか!?ガッデム!!Oh my God!!!


あ、そういや神様はスーパード外道でした。くそったれ!神も仏もねえっ!!






「ヤバいよヤバいよ……ん? なんだ……っ!?」


俺がヤバいよヤバいよと、出川みたいになっていたら突如、ドゴッ!!という激しい轟音と共にあの鉄製の巨大扉のど真ん中が凄い勢いで膨らんだ。



ん? 何となくだけど、拳の形してね?



オイオイ本格的にヤバいんじゃないか? 奴ら、マジもんのモンスター連れてきちゃったんじゃないの?



というか殴ってあの扉をあんなに変形させちゃったの? あと二、三発殴れば貫通しそうだなオイオイ。よく見ればもう穴開いてるし逃げよう。



逃げようッ!!!


全速全身ッッ!!!


しかし、魔王は全身縄でぐるぐる状態なので逃げられない! 魔王は目の前が真っ暗になった!


アーシアも間違いなく絶望の表情を浮かべているに違いない。見る余裕ないけど。


そんなゲームオーバー状態の俺の耳に外から話声が聞こえてきた。




「じゃあ、わちが行ってくるっす。サイくんとセーレちゃんはここで待っててねー?」


「そんなああ、私に行かせてください!!彩香殿!! 必ずや魔王様を救いだしてみせましょうッ!!!」


「いえいえ、ここは魔王様の一番の側近である私が……」




ん?






何だか聞き覚えのある声がするぞ? 気のせいか?


そう思っていたらまた外から会話が聞こえた。



「とりあえず、丁度わちが通れそうな穴をサイくんが開けてくれたから偵察に行ってくるっす」


「いんや! 私ならばこんなチンケな壁などッ!!」


「貴方が本気を出せば中にいる魔王様まで巻き込みかねません」



何だかガヤガヤ言い合ってんなー。扉を挟んでの会話だからこもって聞こえて誰の声なのかはっきり分からん。


その間アーシアは絶えず魔族相手に苦戦を強いられていた。お疲れ様です。




ピュー。



「ん?」



そんな音がこの廃工場中に小さく響いた。その音源は扉に開いた小さな穴から。


そして、幼女が出現した。




「幼女キターーーーー!!!!!」


やべ。興奮して彩香のこと幼女言ってしまった。


「魔王様、その言い方あまり好きじゃないっすー」


むー、と頬を膨らませ可愛らしく抗議してくる和服幼女。もとい、彩香。



ということは外にいるのは俺の手下か!! 


ハッハー!! ご苦労ッ!! 忠実なる我が僕達よ!!!



俺が手下共をスーパー上から目線で出迎えてやろうとしていたら────スパンッと背筋を凍らせるような、恐ろしく鋭い音が耳を襲った。



「!?」



「魔王様、見つけましたよ? 私に黙ってどこへお出かけしていたのですか……?」


「セセセセセーレ……」


俺を縛っていた縄は斬り解かれ、解放されたのだが……。


心臓が、止まった。マジで止まった。


笑顔だけど目が笑っていない。



そう、あのドデカイ鉄製の扉を綺麗に真っ二つにした張本人────俺の目前で冷たい微笑を浮かべる美人悪魔、セーレさんが右手に黒いオーラを漲らせて立っていらっしゃった。怖い。






「何だか騒がしいですね」


そう言いセーレは瞳を閉じた。その間俺は震えていました。


「────」



数秒後、静かにセーレは瞳を開けた。



そして世界は凍る。



まるでそんな錯覚に陥った。さっきまで騒がしかった魔族達の荒々しい奇声、二人組の男共の下賎な哄笑、捕らえられた者達の叫び声、全ての音が消え去った。




セーレの瞳は綺麗な金色の光を湛えていた。


恐らく、彼女の力だろう。魔眼、というやつか。



助けに来た奴らと俺とアーシア以外の周りの者全員が石化していたのだ。ああ恐ろしい。



俺がその光景に唖然としていると、セーレの後ろからとてつもない迫力を撒き散らす青い巨体が現れた。



「抜け駆けは感心しないですなあ」


「ロード、その手に握っているのは?」


なんと、その青い巨体……右手にヒトの頭をガッチリと握っていた。胴体は繋がっているものの、血塗れでござる。


そしてこの青い巨体……なんと、一つ目だ。巨人のような身体に乗っかる頭には一つしか目がない。その下にある口はニヤリと歪んでおり、中々ユニークな容貌だ。







「これですかな? ええ、先ほどの残党ですな。思った以上にしぶとかったようで」


恐らく、先ほどの世紀末野郎共の一人か。セーレ達に壊滅させられたんだな。ざまあ。


ロードと言われた一つ目巨人はそう言い捨て、握っていた人間を放り投げた。わーおviolence!



「もう、だめっすよ、サイくん」



これには彩香も苦笑気味で、



「やるならこれくらいしないと」


え?


一つ目巨人の後ろで剣を降り下ろそうとしていた男に向けて何か白く輝く物を放出した。


その直後、男の両手がさようならした。


「アギャアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!」


 ( ゜д゜ )


「おお、すまない。彩香殿。まさかまだ伏兵がいたとは」



現実逃避。俺は、何も見ていない。幼女は、そんなことしない。よし、大丈夫。




そ、それより、気になることが……。


なんで俺とアーシアは石化していないんだ?



セーレは驚愕した様子で俺の方を見ていた。


いや、正確には俺の近くへと駆け寄っていたアーシアの方を見ていた。まるであり得ないものを見ているかのような様子だ。



「あの方達は貴方のお知り合いなのですか?」



戦っていた魔族達が石化したので、アーシアが話し掛けてきた。少し余裕を取り戻しているようだが、時折、石化した弟達の方へと気遣わしげな視線を向けている。



「ああ、まあな」


「では弟達を元に戻すよう言って頂けませんか?」


「え? あ、ああ……」


上目遣いで懇願されてしまった。


うーむ。捕まってる魔族の方はまだしも、弟くんの方はどうだろうな。人間だし、セーレさん許さんかも。



「魔王様、その者から離れてください」


あちゃあ。セーレさん、敵意剥き出しの様子。


「魔王、様……?」



頭にクエスチョンマークを浮かべるアーシア。まあ当然だな。






「魔王様、下がってください。すぐに排除致します」


「な、何なんですか……!?」


アーシアが困惑した表情でセーレと対峙する。無理もない。助けが来たと思ったら突然敵扱いだからな。


「およしなさい。剣を扱えるようになったばかりの勇者が魔王様の側近である私に勝負を挑むなど……」


いや、先に仕掛けたのはセーレじゃね? すみません何でもないです。



「……私に挑むなど、レベル5のトンヌラがゲマに勝つと同じ程無謀なことです」


セーレ、お前……クロルと一緒にドラクエやってただろ。なんで別世界でもドラクエがあるんだよ。すげーなドラクエ。


とりあえず、セーレに一旦落ち着いてもらえように必死に頼んだらとりあえず了承してもらえた。ジト目で。



「どういうことですか? 本当に貴方が……魔王、なのですか……?」


「いや、魔王じゃなくて、マオ。俺マオって名前なんだ」


とっさの思いつきだが、ナイス俺じゃね?



「そ、そうですよね。貴方が魔王であるわけないですよね……良かった……」


最後の方はボソボソと喋っていて聞こえなかった。けど、俺が魔王ってのはバレずにすんだかな?


「こいつらは俺の仲間。俺、魔物使いなんだ」



思いつき第2弾!! さすがに無理があるか?


「魔物使い……って何ですか?」


おお、興味津々。でも、魔物使いっていうのはこの世界にはないのか。ドラクエにもあるからてっきりあるものと。





「そうだな……。魔族と協力して戦闘を行う奴らの総称ってところかな」


そんな総称知りません、とジトーっとした目で見つめてくるセーレ。


「凄い……マオさん。魔族の皆さんと協力して戦闘だなんて……」


キラキラとした瞳でアーシアに見つめられてしまった。セーレさん、笑顔が怖いです。



「それでは、話が済んだようなので────」


「ちょいちょいちょい。とりあえずその右手の禍々しいオーラを仕舞おうか。怖いから」


ちょっと目を離した隙にアーシアを殺りかねない。それくらいピリピリとした雰囲気だった。冷静沈着完璧メイドなセーレにしてはとても珍しい。



「……こちらへ」


セーレが手招きしてきたのでそちらへ向かう。俺とアーシアが離れているのを確認して、セーレは静かな声で告げてきた。



「あの者、恐らく勇者の末裔です」


「なん、だと……?」


コレ一度言ってみたかった。



「魔王様、ここで奴を殺しておけば、今後魔王様を脅かす輩の中でも一番の厄介の種は消えましょう」


「そこまでの奴なのか……? アーシアは……」


「魔王様を打倒し得る数少ない人種の一つです」


まあ勇者って言ったら魔王を滅ぼす者としては定番だな。でも今の俺だったら倒すことなんて砂漠の中から砂を見つけるくらい簡単なんじゃね?


それに、なあ……。知り合っちゃった女の子が目の前で殺されるのはちょっと勘弁。


しかもめちゃくちゃ可愛いっ!!


さっきまでの凛々しい戦士の表情から同年代、もしくは年上だと思っていた。


しかし、今……俺を尊敬の眼差しで見つめるこの子が醸し出すのは、圧倒的守ってあげたくなるオーラッ!! まさに、THE 妹!!


そんな子が死ぬなんてもったいない!!

MOTTAINAI!!







「セーレ、聞いて欲しい」


俺は真摯な態度でセーレに話し掛けた。でも悲しいことに、セーレは胡散臭い物を見るような眼差しでした。



「魔王はな、威風堂々とした佇まいで自らを打倒しうる力を持った者達を迎える義務があると思うんだ。だから、その芽を摘み取ってしまうのは些か魔王としての威厳に関わってしまうのでは? 俺はそう考えている。あと1、2年でアーシアもさらに立派に育つだろう(美少女的な意味で)。俺はその時が来るまでは、最強の座にて(美少女達を)待ち続け──」


最大のドヤ顔を作り出し、



「――奴らを、返り討ちにする(エッチ的な意味で)」



どうよ? 俺の魔王たる演説の素晴らしさはっ!!



「──魔王様、方向性はどうあれ、物事に意欲的になられましたね」


嘆息しながら呆れ顔で聞いていたセーレだったが、最後には優しい笑みを浮かべてくれた。


思わず見とれてしまった。


その笑顔は、悪魔とは思えない暖かな慈愛に満ちていて────これまでの笑顔とは違って、深く俺の心の中に残った。






「マオ様に免じて、今回は見逃して差し上げます」



そう言ってセーレは金色の瞳の輝きを落ち着かせ、元の紅色の瞳に戻った。


すると、アーシアの弟を含め、敵を除いた皆の石化が解かれた。



「みんな……っ!!」



アーシアは歓喜した様子で弟達の方へ駆け寄って行った。弟、魔族の住民達も最初は戸惑っていたが、アーシアを見た途端、喜びの表情で彼女を迎えていた。



「うーーん。人間と魔族。互いに相容れない種族同士の絆。ふむふむ、感動的な対面ですなあ」


一つ目巨人が感慨深げに呟いた。セーレ、彩香は分かるんだが、こいつも俺の部下とやらなのか? 三人で俺を助けに来たんだからそうだとは思うんだが。



「あ! 魔王様、そういえば記憶を失っていたんでしたね! 申し遅れましたアア!! 私、ロードサイクロプスと申しますっ!!」



う、うるせえ。野太い声で叫ぶな。


そうか、こいつが彩香の言っていたサイくんとやらか。あの時は足しか見えてなかったが、想像通り、全身はとてつもなくデカイ。


ロードサイクロプスが……いや、名前なげえ。俺もセーレみたいにロードって呼ぼ。


ロードが俺に色々話し掛けてきたので面倒くさくも対応していたら、アーシアが目に涙を浮かべ、お礼を言ってきた。


それに対し俺は爽やかに、


「いや、俺は何もしていないさ」


実際何もしてませんでした。すいません(笑)



「マオ様、凶化の術を受けた魔族達は我々が引き取ることにしました。適切な処置を施せば治る望みもありますので。使いの者を呼びましたのでこのままで大丈夫です」


「よかった……」


俺が返事をする前にアーシアが嬉しそうに呟いた。本当に優しい子なんだな。


今日凄い活躍してたし、演説もすごかったし、心も優しいし、もしかして……どこかの小説の主人公なんじゃね?



────ふと俺がそう思ったら、急に世界が暗転した。



この感じ、あの外道女か。


くそっ、せっかくアーシアを視姦していたというに。


そうだ、代わりに紅のこと視姦したろ。


そう思いながら俺は意識を手放した。






 ・ ・ ・





その時、俺は思っていなかった。


まさか、アーシアを生かしたことを、後悔する日が来るなんて。


あの時、殺しておけばよかった、なんて……。



そんな伏線地味たことを、俺は思ったり思わなかったりするのだった。

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