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魔王、はじめてのお出かけ《前編》

さて、紅から解放された俺(の魂)は、さっきのエロい状態のまま戻されるはずだったんだが、俺が紅から拉致られてる間ずっと、俺の身体は気絶状態だった。



そんなもんだから慌てたセーレが医者やら何やらを呼び出して大騒ぎだったようだ。



お騒がせしてスイマセンね。お陰様で身体の方は無事です。魂はヒドい目に遭ったけど。





「本当に、ご無事で何よりです」




瞳を濡らしたセーレの本当に、本当に心配したような声のおかげで、目覚めてぼーっとしていた頭が少し覚醒した。



「心配かけたな」



こんな偉そうな台詞を吐いてはみるものの、瞼を赤く腫らした彼女を見ていたら、少しの罪悪感が出てきた。


「お身体の方はもう大丈夫なのですか?」



「まったく問題ない。むしろ前より良い」



20年もかけて前魔王と培われた信頼、愛情が────今、俺に向けられている。


今日偶然この世界に飛ばされてきた俺に、だ。



こんな余所者が彼女の親愛の情を一身に受けていいのだろうか?



こうして甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼女を裏切っているのではないか?



「そうでございますか。それは安心致しました。それでは────」




たとえ、あの外道馬鹿女の仕業だとしても、彼女に真実を話し、俺はここを出て行くべきなのでは?




そして、なんでセーレさんはメイド服を脱ぎ出しているんだ?



そんな疑問、葛藤が、俺の頭の中を渦巻いていた。





確かに色々迷うことはある。セーレにはいずれ真実を話さねばならないだろう。






「それでは、魔王様。続きを致しましょう。お身体の方は大丈夫ですか?」



「うむ、大事無いぞ」



うん。色々考えることはあるけど、時には流れに身を任せるのも悪くない。フヒヒ。


もう少しの間だけ甘い汁を吸わせてもらおう。いや、性的な意味でなく。



いやあ、先ほどはセーレのペースに乗せられたが、まじで今回は俺が攻める。まじで。



最初見たとき印象的だった切れ長の目は、今はもうトロンとしており妖艶な光を湛えている。


それだけでもヤヴァイのにベッドに乗って四つん這いで近づいてくる姿がさらにヤヴァイ。


そして金色の綺麗な髪が彼女が動く度にしなやかに揺れる。


黒い下着の隙間から見える谷間にもドキドキせざるを得ない。



恥ずかしながら、胸が熱くなってきたぜ。




「魔王様。では、失礼しますね?」


「お、おう」


そう言ってセーレは俺の下半身に手をかけ邪魔な衣服を脱がしにかかる。


細く長い指が俺の衣服を脱がそうと艶めかしく動いている。焦らしているのか動きはやや緩慢である。たまらん。





でもね、




「魔王様ーーっ!! ぶっ倒れたって本当と書いてマジですかーっ!? べ、別に心配して来たわけじゃないわけではないんだからね!!」




どうやら俺はこの世界では幸せにはなれないらしい。




てか、なにこのエセツンデレ。俺そんなにツンデレ好きじゃないんだけど。しかも幼女。ガキは寝てろ。ここからは大人の時間だ。



俺と同じ黒髪を揺らしながら、表情は目まぐるしい。一目で活発なガキンチョだということが分かる。



見た感じ和服っぽい衣装の幼女は俺とセーレの状態を確認した後、得心したように頷き、



「わお。ついにヤってしまったんすね。めでたいめでたい。今日はお祝いだー」




「さ、彩香さん!?」



セーレは彩香さいかと呼ばれた幼女を見て、先ほどとは別の意味での朱が頬にさしていた。




幼女の登場で何やら場の雰囲気おかしくなり始めた頃、また新たな闖入者が現れた。もうやだ。




「魔王様アアアーーっ!! ご無事ですかー!? 私心配しましたぞおおっ!!!」



物凄い野太い声が響きわたり、ドアから巨大な足らしきものが見えた。



「あー、サイくんはデカすぎるから部屋に入っちゃダメっすよ。壁ぶち壊しちゃダメっす」



彩香とやらが説得に入った。ドアよりデカい足ってことは、全身はさぞかしデカいんだろうな。さすが魔王の住むお城。



大物のモンスターがうじゃうじゃいるのだろう。



「魔王様、お騒がせして申し訳ございません」



「いや、セーレが謝ることじゃない。所で、あのデカいのは?」


「? ロードサイクロプスのことでしょうか?」



ロードサイクロプス?


サイクロプスの上位互換的なものだろうか。



「魔王様、やはりお休みになられた方が……。今日の魔王様は少し様子が────いえ、侍女悪魔風情が差し出がましい真似を、申し訳ございません」



やべえ、もう様子おかしいことに気付かれてる。


だが、神を名乗る紅が存在そのものを俺と魔王を入れ替えたんなら、そんな違和感すらも無くなりそうなものだが。




とりあえず、ここは記憶喪失という設定で乗り切ろう。うん。そうすりゃ当分は楽できるぜ、ククク。俺天才。




「実はな、さっき目覚めてから────自分が誰かさえも分からないんだ。今日の出来事は覚えてはいるんだが……昨日までの記憶が……」


沈痛な面持ちで、十分にタメを作ってからのこの台詞。どうだ!



「そ、そんな」



案の定、セーレは簡単に引っかかってくれた。だがセーレは俺の予想した以上に痛ましい表情を、そして申し訳なさそうな表情を作った。



「私が無理に魔王様を誘ったばかりに……私、どうすれば」



あっれー? ものすんごい落ち込んでしまった。今にも泣きそうである。



「魔王様、わちのこと分かるっすか?」



「い、いや────分からん」



分からん(笑)


セーレの頭を優しく撫でながら彩香は俺に質問してきた。ロードサイクロプスとやらは帰って行った様子。


なんでちっこい幼女である彩香が女性にしては高めの背丈のセーレを撫でられるのか。



それは、浮いているからである。

どういう原理か知らないが、なんかふわふわ浮いとる。ここにきて初めてのファンタジー現象。




「自分のことも分からないのは困っちゃうっすねー」


うんうん、と頷く彩香。心なしか楽しげな雰囲気なんだが気のせいか?



「よし、散歩行きましょ! 散歩!」


「さ、彩香さん!?」



突然の彩香の提案に驚愕した様子のセーレ。はて、そんなおかしな提案だったろうか。


散歩。悪くないぞ。俺まだこの部屋から出てないし。

行動範囲が自室だけとかどこの自宅警備員だよ。


いい加減魔王のお城を探索したいぜ。



まあ魔王のお城を警備するなんて壮大にも程があるが。



「ですが魔王様は本来────」



「記憶喪失なんだから大丈夫っ。準備、準備するっすよー」



「は、はあ」



彩香は今度は明らかに楽しげな表情を浮かべ、ピュー!という効果音と共に飛んで部屋を出て行った。



「魔王様、もしお部屋に戻りたくなったらすぐに言ってくださいね?」



「? ああ、分かった」

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