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第一話‐01

 雨が降る。ぱら、ぱら、ぱら。無数の滴が地面を打ち、絶え間ないメロディを奏でる。大陸の中心の、小高い丘の上にそびえ建つ白い神殿が、雨の中でぼんやりと浮かび上がっている。

 そんな中、丘の東側にある林の中では、武装した大柄な六人の盗賊たちが息をひそめ、大きな岩に身を隠して陰から神殿の様子をうかがっていた。その神殿の外では、長い黒髪をひとまとめにした男が一人、雨宿りもせずに、斧をかついで立っている。盗賊の一人が、静かに弓を構えた。黒髪の男の胸に向けられる、鋭く尖った矢先。男はそれには気付いていない。ぎちぎちと弦が鳴く。そして、矢が、放たれた。羽が風を切る音は雨音にかき消され、男の耳には届かない。あまりにもあっけなかった。雨でかすむ景色の向こう、男は斧を落とし、地に倒れた。

「行くぞ」

 盗賊の頭らしい男の声を合図に、彼らは丘を駆け上がった。

 神殿の入り口は北側にあった。そこには別の男が立っており、腰には剣が差してあったが、盗賊たちにはまったく気付いておらず、完全に背を向けている。彼らは迷うことなく矢を放ち、そして水溜りに身体を沈めたその男の横を通って、神殿内部に入り込んだ。


 そこは暗く、じっとりとした空気が漂っていた。いくつもの柱の並んだ通路は広いが、しかし壁には燭台などなく、奥に行けば外の光も届かない。

「お頭、これじゃあ“神の遺産”とやらがあったとしても見えねえぜ。探すのに骨が折れる」

 一人が言った。ううむ、と、お頭と呼ばれた男がうなる。そんなとき、別の男が声を上げた。

「あれ、行き止まりだ」

 確かに彼の言うとおり、正面には壁があった。いや、正確には巨大な扉、が。暗さに目の慣れた盗賊たちは、扉に手を当てくまなく調べる。

「こりゃあ神話に載っている、神の扉だな。宝はきっとこの奥にある」

「しかし重い扉だ。俺たちで開けられるか?」

「いや、待て。こいつは――」

 お頭は、扉の中央に、エメラルドグリーンの丸い石がはめ込まれていることに気が付いた。彼は腰から剣を抜くと、柄の部分で思い切りその石を叩いた。ぱきん、という乾いた音とともに、破片が足下に落ちる。するとどうだろう、石がなくなった窪みから上下に白い筋が伸び、そこが裂けるようにして、扉がゆっくりと開き始めたではないか。

 盗賊たちの口から感嘆の声が漏れる。扉の向こうからはまばゆい光が溢れ、そこにいったい何があるのかと、誰もが期待に胸を膨らませたことだろう。しかし、それも束の間のことであった。

 人が通れるくらいの幅まで扉が開いたとき、“それ”は現れた。耳をつんざくような轟音。大きな何かが突如として、突進してくるかたちで扉の向こうから現れ、開きかけだった扉も、その前に立っていた盗賊たちも弾き飛ばした。通路に投げ飛ばされ、転がり、うめき声を上げる盗賊たち。何が起こったのか、とお頭が顔を持ち上げると、そこにあったのは、黒い、大きな馬車だった。四頭の黒馬、黒いローブを身に纏った御者、漆黒の車。その異様な光景に、お頭は身震いした。そして彼が逃げ出そうと立ち上がったとき、御者の青白い顔がぐるりと、お頭に向いた。死人のように表情のない顔だった。

「ひっ」

 短い悲鳴が喉から漏れる。四頭の馬が、蹄を鳴らして近付いてくる。お頭は腰に手をやったが、剣はなかった。先ほど石を壊すのに手にしていたため、馬車に跳ね飛ばされた衝撃で手放してしまっていたのだ。焦った様子で辺りを見回すお頭。その首に、するりと縄のようなものがかけられた。お頭がはっとして首に手をやる。しかし彼が状況を理解する前に、馬車は走り出していた。悲痛な声が、雨音に混じって響き渡った。

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