第六話 まだ足りない
私は、
もう十分に生きたと思っていた。
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苦しい人生もあった。
救いのない人生もあった。
そして、
誰かのために生きた人生もあった。
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それなのに、
終わらなかった。
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目を覚ますたび、
新しい身体にいる。
新しい親。
新しい環境。
そして、
更新された記憶と、
積み重なった記憧。
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私は、
疑問に思い始めていた。
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何が足りないのだろう。
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知識はある。
経験もある。
失敗も、
後悔も、
痛いほど知っている。
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それでも、
輪廻は止まらない。
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この人生では、
私はごく普通の人間だった。
目立たず、
失敗も少なく、
成功も大きくない。
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前世の記憶は、
必要なときだけ使った。
深入りしすぎず、
賢くなりすぎず。
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それなのに、
夜になると、
胸の奥がざわついた。
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思い出すのは、
死の瞬間ではない。
むしろ、
生きている途中の感覚。
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誰かの背中。
手の温度。
言えなかった言葉。
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記憧は、
静かに増えていく。
使い道のない重さとして。
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ある日、
私はふと考えた。
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もしかすると、
私はまだ
「受け入れていない」のではないか。
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親を選べないこと。
身体を選べないこと。
不公平な始まりを、
不公平なまま引き受けること。
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私は、
理解はしていた。
でも、
納得はしていなかった。
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どこかで、
まだ思っている。
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次は、
もう少しマシな人生を。
次こそは、
報われる人生を。
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その期待が、
輪廻を続けさせているのではないか。
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もしそうなら。
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私はまだ、
学びきっていない。
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報われなくても。
選べなくても。
それでも生きるということを。
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夜、
静かな部屋で、
一人座る。
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私は、
初めて思った。
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この力は、
私を導くためのものではない。
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諦めるためでも、
耐えるためでもない。
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ただ、
「受け入れる」ための罰なのだ。
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忘れられないまま。
比べてしまうまま。
それでも、
今を生きる。
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それができるまで、
私は、
終われない。
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そう考えると、
不思議と、
怖さは薄れた。
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終わらないことよりも、
分からないまま
生きることの方が、
ずっと人間らしい。
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次の人生が、
どんな始まりでも。
私は、
また、
目を開けるだろう。
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まだ足りないまま。
最終話:輪廻




