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輪廻  作者: 悠羽
6/8

第五話 誰かのために

この人生は、

 静かだった。


 過酷でもなく、

 恵まれているとも言えない。


 ただ、

 波が少なかった。



 生まれた家は、

 貧しくはなかった。


 怒鳴り声も、

 暴力もない。


 それだけで、

 私は「当たり」だと思った。



 前世の記憶は、

 相変わらず、

 すべてあった。


 だから、

 無理はしなかった。


 期待もしなかった。



 私は、

 早く大人になった。


 年齢ではなく、

 感覚が。



 ある日、

 妹が生まれた。


 小さくて、

 泣き声が弱い子だった。



 抱き上げると、

 心臓の音が、

 直接伝わってくる。



 その瞬間、

 思ってしまった。



 ――この子は、

 何も知らない。



 死の恐怖も。

 後悔も。

 親ガチャなんて言葉も。



 ただ、

 生きているだけ。



 それが、

 やけに眩しかった。



 私は、

 初めて思った。



 この人生では、

 失敗してもいい。



 妹の前では、

 賢くなくていい。


 正解を知っていなくていい。



 ただ、

 ここにいればいい。



 前世の記憶は、

 この子には使えなかった。


 教えられないし、

 分かち合えない。



 でも、

 それでよかった。



 妹が転んで泣く。


 私は、

 理由を考えなかった。


 ただ、

 手を差し出した。



 「大丈夫」


 その言葉に、

 裏はなかった。



 夜、

 一人になって思う。



 私は、

 この人生で、

 初めて“役に立っている”。



 誰かのために生きることが、

 こんなにも、

 静かなものだとは知らなかった。



 守りたいと思った。


 救いたいではない。


 導きたいでもない。



 ただ、

 一緒に時間を過ごしたい。



 その願いは、

 前世の記憧から

 生まれたものじゃない。



 この人生で、

 初めて芽生えた感情だった。



 それでも、

 終わりは来る。


 それは、

 平等だ。



 最期の日、

 妹は大人になっていた。


 泣かなかった。


 ただ、

 私の手を握った。



「ありがとう」



 それだけだった。



 私は、

 思った。



 ああ。


 この人生は、

 悪くなかった。



 生き切った、

 とまでは言えない。


 でも、

 生きた。



 次に目を覚ましたとき、

 記憧は、

 また更新されていた。



 優しさの重さ。

 残される側の顔。

 言葉にしなくても、

 伝わる感情。



 私は、

 少しだけ分かった気がした。



 この力は、

 誰かを救うためじゃない。



 誰かと生きるために、

 忘れないための罰なのだと。


第六話:まだ足りない

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