第四話 使えない身体
目を覚ました瞬間、
違和感があった。
息が、
浅い。
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胸が重い。
空気が、
うまく入らない。
身体を動かそうとして、
動かないことに気づく。
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声を出そうとして、
音にならなかった。
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――ああ。
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今回は、
そういう身体だった。
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生まれつき、
弱い。
医者は、
難しい言葉を使って説明した。
親は、
分かったふりをして、
分かっていなかった。
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私は、
理解していた。
長くは生きられない。
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前世の記憶は、
すべてある。
世界の仕組みも、
言葉も、
人の嘘も。
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でも。
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この身体では、
何一つ、
使えなかった。
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起き上がることも、
走ることも、
逃げることも。
怒鳴ることさえ、
できない。
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親は、
疲れていた。
最初は、
抱きしめてくれた。
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でも、
時間が経つにつれて、
それは義務になった。
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ため息が増えた。
沈黙が増えた。
夜になると、
小さな声で、
現実的な話をしていた。
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私は、
聞いていた。
聞こえないふりをしながら。
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この人生では、
「努力」は意味を持たない。
「工夫」も、
「知恵」も。
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ただ、
生きているだけで、
負担になる。
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ある夜、
母が泣いた。
私の手を握りながら。
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「ごめんね」
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何に対する謝罪なのか、
分からなかった。
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私は、
言葉を返せなかった。
返したとしても、
意味はなかった。
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この人生で、
初めて思った。
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――早く、
終わらせてほしい。
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その考えが浮かんだ瞬間、
恐怖が走った。
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生きたいと思えない人生でも、
死ぬのは、
やっぱり怖い。
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矛盾だ。
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ある朝、
空が白かった。
音が、
遠くなっていく。
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呼吸が、
ひとつ、
抜け落ちる。
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――またか。
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その瞬間まで、
私は、
慣れなかった。
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次に目を覚ましたとき、
私はまた、
別の身体にいた。
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前世の記憶は、
更新されていた。
苦しさ。
無力さ。
願ってはいけないと思いながら、
願ってしまったこと。
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この力は、
誰かを救うためのものじゃない。
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逃げられない現実を、
何度も突きつけるためのものだ。
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私は、
そう理解し始めていた。
第五話:誰かのために




