第三話 祝福ではない
この力を、
祝福だと思っていた時期があった。
前世の記憶を持っていること。
何度生まれ変わっても、
世界の仕組みを忘れないこと。
それは、
有利で、
便利で、
賢く生きるための道具だと。
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でも、
違った。
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この人生では、
私は長く生きた。
特別に恵まれていたわけじゃない。
不幸でもなかった。
ただ、
平凡だった。
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結婚もしなかった。
子どもも持たなかった。
理由は、
説明できる。
失敗を知っていたから。
別れを知っていたから。
死を、
何度も経験していたから。
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誰かを深く愛することは、
できた。
でも、
それ以上に、
失う重さを知りすぎていた。
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夜、
一人で酒を飲みながら、
ふと思う。
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私は、
何を学ばされているのだろう。
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転生するたび、
環境は変わる。
身体も、
性別も、
親も。
良いときもあれば、
悪いときもある。
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でも、
共通していることが一つある。
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どの人生でも、
私は「完全」にはならなかった。
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賢くなっても、
満たされない。
上手く生きても、
納得できない。
誰より経験を積んでも、
「これでいい」と思えない。
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あるとき、
ふと気づいた。
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これは、
報酬じゃない。
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何度も生きることは、
特別な力なんかじゃない。
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これは、
忘れることを許されないという罰だ。
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死の感覚。
恐怖。
後悔。
それらを、
毎回、
新品のように味わう。
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普通なら、
一度きりで済むものを。
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なぜ、
私だけ。
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答えは、
返ってこない。
誰も、
説明してくれない。
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神がいるのかどうかも、
分からない。
裁かれているのか、
試されているのか。
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でも、
ひとつだけ、
確かなことがある。
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私は、
まだ「分かっていない」。
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だから、
終わらない。
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この輪廻は、
理解するまで続く。
何を理解するのかさえ、
まだ、
分からないまま。
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その夜、
私は静かに思った。
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もしこれが罰なら、
私は、
ちゃんと学ばなければならない。
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逃げずに。
目を逸らさずに。
次の人生でも。
第四話:使えない身体




