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輪廻  作者: 悠羽
3/8

第二話 使えるはずの記憶

この人生では、

 私は早くから気づいていた。


 自分が、

 他の子どもとは違うことに。



 言葉を覚えるのが早かった。

 文字も、すぐに読めた。


 大人たちは言った。


「賢い子ね」

「将来が楽しみだ」



 私は、

 その言葉に違和感を覚えた。


 賢いわけじゃない。

 知っているだけだ。



 前の人生で、

 もう見た光景。

 もう聞いた言葉。


 それを、

 なぞっているだけ。



 今回は、

 比較的まともな家庭だった。


 怒鳴られもしない。

 殴られもしない。


 親は、

 私の話を聞いてくれた。



 正直に思った。


 ――今回は、

 当たりかもしれない。



 前世の記憶を使えば、

 もっと上手く生きられる。


 そう、

 本気で思った。



 学校では、

 目立たない程度に成績を取った。


 できすぎないように。

 でも、

 できないふりもしない。



 先生の考え方も、

 だいたい分かる。


 叱られるポイントも、

 褒められるタイミングも。



 人間関係も、

 楽だった。


 どんな言葉をかければ、

 相手が安心するか。


 どこまで踏み込めば、

 嫌われるか。



 全部、

 もう知っている。



 完璧じゃない。


 でも、

 失敗しない人生。



 私は、

 それを選んだ。



 けれど、

 ある日、

 ふと思った。



 私は、

 今、

 何歳なのだろう。



 身体は、

 確かに子どもだ。


 鏡に映る顔も、

 幼い。



 でも、

 頭の中は、

 何十年分もある。



 笑っているのに、

 どこか遠い。


 楽しいはずなのに、

 胸が動かない。



 同級生が、

 泣いていた。


 些細なことで、

 大げんかをして。



 その姿を見て、

 私は思った。


 ――くだらない。



 その瞬間、

 ぞっとした。



 泣くほど大事なこと。

 怒るほど必死なこと。


 それを、

 私はもう、

 「通過済み」だと思っている。



 前世の記憶は、

 私を守る。


 でも同時に、

 削っていく。



 感情を。

 衝動を。

 取り返しのつかなさを。



 夜、

 一人で天井を見る。


 心は静かだった。


 穏やかで、

 安全で。



 それなのに、

 ふと浮かぶ。



 ――この人生、

 生きてるって言えるのかな。



 前世の記憶は、

 使える。


 確かに、

 使える。



 でも。



 それを使いすぎると、

 私は、

 私じゃなくなる。



 その予感だけが、

 胸の奥に残った。



 次に死ぬとき、

 私は、

 何を覚えているのだろう。



 それを考えるのが、

 少しだけ、

 怖かった。


第三話:祝福ではない

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