第一話 輪廻
あなたは、前世の記憶を持っているだろうか。
私は、持っている。
それも、一度や二度ではない。
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最初に覚えている死は、
水の中だった。
冷たくて、
息ができなくて、
肺が焼けるように痛かった。
意識が途切れる直前、
水面の向こうの光が、
やけに綺麗だったことだけを覚えている。
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次は、事故。
音と衝撃。
それだけで終わった。
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その次は、
もっと直接的だった。
誰かの怒鳴り声。
刃物の感触。
人は、思っていたより簡単に壊れる。
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何度生まれ変わっても、
この瞬間だけは慣れない。
死ぬという感覚。
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目を覚ますと、
私はまた、
別の身体にいる。
小さな手。
高すぎる声。
うまく動かない足。
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今回は、
女の子だった。
前回は、
男だった。
その前は、
最初から長く生きられない身体だった。
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身体は、選べない。
親も、選べない。
生まれた瞬間、
すべてが決まっている。
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今回の人生について言えば、
正直に思った。
――親ガチャ、失敗だな。
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怒鳴り声が多くて、
余裕がなくて、
愛情はあるのかもしれないけれど、
扱い方を知らない親。
前世の記憶がなければ、
それが普通だと思っていたかもしれない。
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でも、
私は知っている。
他にも世界があることを。
他にも人生があることを。
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転生を繰り返すたび、
私は賢くなる。
危険な人間の見分け方。
この家庭で生き延びる方法。
怒らせない距離感。
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前世の記憶は、
武器になる。
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それでも。
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死の記憧だけは、
何度経験しても更新される。
鮮明になって、
重くなって、
逃げ場がなくなる。
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忘れられない。
薄まらない。
慣れない。
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それでも、
私はまた生きる。
身体も、
親も、
環境も、
選べなくても。
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なぜなら、
まだ一度も、
「これでよかった」と
思えた人生がないからだ。
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次こそは、
うまくやりたい。
次こそは、
生き切りたい。
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その願いだけを持って、
私はまた、
輪廻の中にいる。
第二話:使えるはずの記憶




