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短編集  作者: 末吉
魔法少女がいる理由
2/4

知ってしまった驚き

 次の日。

 三人一緒に登校するなんて思った人達。残念ながらそんなことはしないよ。

 だって姉さんが一番遅くて次に遅いのが梨花だから。母さんの後に僕が起きるって感じだし。だから僕は学校には一人で登校している。


「行ってきまーす」

「いってらっしゃい財賀」

「今日も学校頑張れよ」

「父さんもね」


 見送ってくれた両親を見ずに僕はそのまま玄関を出た。


 まぁ昨日は特に何もなかったよ。強いて挙げるなら僕が目撃した光景を口にしたら家族全員が全く同じ言葉で否定したってところかな。不思議なことに。

 まさかあんな風に強く言われるなんて思いもしなかったから、さすがにもうあの光景を誰かに話そうなんて思う気もしなくなったよ。

 今日も空が晴れている。歩きながら空を見上げて僕は散歩したら気持ちよさそうだなぁと感想を抱く。

 学校があるから無理だけどね。休みの日だったらやってると思う。


 時間はあるからのんびりといつものペースで歩いていく。僕が一番余裕で学校について姉さんが遅刻ギリギリ、梨花はギリギリに近いけど時間的余裕はある方だね。偶に仕事で休んだりしたらしいけど。

 でも姉さんや梨花ってテストの点数良いんだよなぁ。僕はいつも八割行けばいい方なのに、二人は素で八割九割行くからなぁ。

 間に挟まれるって大変だなぁと今更なことを考えながら歩いていたら、不意に足が止まった。

 恐怖で足がすくんだというよりは、なんかこの先が危ないと頭の中で警鐘が鳴っている感じ。本能が先に進むことを嫌がっている感じ。

 僕はふと携帯電話を取り出して時間を見る。七時四十分。まだまだ余裕。

 ここに住んで長い僕は、少し遠回りでもするしかないなぁと考え足の向きを変えた。




 ちょっといつもより余裕がない形で学校に着いた。やっぱり遠回りが痛かったかな。でも、あそこ進んでたらなんか危ない目に遭いそうだったしな……さっきの事を悔やみながらも僕は昇降口で上履きに履き替え、自分の教室へ向かった。


 この街は学校が多い……という訳ではなくて、女子高と、私立と、僕が通う公立の三校しかない。高校はね。大学が公立と私立の二校で、中学校は私立一つに公立二つ、小学校では私立二つに公立二つといった具合。……って、あれ? 意外と多いのかな?

 そんな街なので休日にもなると、身近なスポットに人がたくさんいる。公園に子供がたくさん遊んでいる。カードショップでは勝負をしている人達が多く見受けられる。

 ……意外と多かったね。


 ま、この学校の全校生徒も九百人近いしね。結構なマンモス校だよ。


 と、そんな紹介を誰かにするようで考えていたらいつの間にか自分のクラスの前に着いた。


「おはよー」

「おーっす財賀。今日はいつもの時間に来ないから休みなのかと思ったぜ」

「いつもの道が何かやってたみたいだったから遠回りしたんだよ、辰巳」

「ふ~ん」


 そういうと話しかけてきた辰巳は僕の肩を組んで小声で「そういえばお前の姉と妹もここなんだろ?」と言ってきたのでうんと頷く。

 一体何が言いたいのだろうか辰巳は――そんなことを思いながら。


 池谷辰巳。僕の腐れ縁で親友。ある意味で情報通で、ある意味で女子の敵に認定されかねない人物。まだされていないので、今後ともそうならないように祈りたい。

 顔立ちはまぁ普通だけど、いつも明るく笑顔で元気がよくて、気が付けば中心的立場にいるかと思えば陰でサポートをする、すごい人。だけど、どうしてもいろんな女の子に声をかけたり男の夢を軽々壊すような、本人にとっては知られたくないヒミツを偶に口が滑ってばらすことがある。そのせいで何度辰巳が殴られる姿を見たことか。

 身長は僕と同じぐらい。だけと髪型はいつもどうやってるのと訊きたくなるツンツン頭。制服も一年の最初に気付かれない範囲で改造してという、優等生とは程遠い人。でも成績はいいんだよね。


「そっか……あの美人&可愛い姉妹と一緒の高校か……うんお前と同じ年に生まれてよかった」

「姉さんと梨花の二人に殴られてるのによくそんな嬉しそうだね。殴られたの自業自得だけど」


 友達ながら頭のねじが外れているのじゃないかと心配しつつ僕は自分の席へ歩く。

 それについてきながらも、辰巳は「そりゃ、振られてもアタックするのが男ってもんだろ」と堂々と言い切る。

 セリフ自体はかっこいいのにやってること最低なんだよね。


「遊び人だよね、辰巳って。いつか背後から刺されるんじゃないかな」

「のほほんとした顔で偶にそんな毒をポロリと吐くよな、我が親友はよ」

「だったらその態度を改めた方がいいよ。でないとその内に男女関係なく標的にされるからさ」

「って、おいおいおい。俺が刺されるって確定?」

「八割はそうでしょ?」

「なんてこった」


 芝居がかった感じでそういった辰巳は僕が座った前の席に座り込んでこちらへ体の向きを変え、「そういえばよ、お前昨日のニュース見た?」と質問してきた。


「ニュース? いつも見てるけど、それが?」

「そん中でさ、とんでもなく変わったニュースあっただろ。万引き犯を捕まえた人って奴」

「……そんなのあったっけ?」

「あったよ。なんたって捕まえたのは魔――」

「池谷君」


 辰巳が得意そうな顔をして説明し始めた時、一人の女性が割り込んできた。

 声がとても特徴的で見なくても分かるけど、思わず声の主を僕達は見る。

 その声の主は学年で一番の有名人、眉目秀麗、冷静沈着、文武両道な女生徒の高島鏡花さん。学年テストはぶっちぎりトップで、人気投票でも生徒会役員選挙でもトップの人気者。ちなみに彼氏はいないそうだ(辰巳情報)。

 まぁどこか惹きつけるものが在るんだろうね。僕別な人に投票したからあんまりわからないけど。

 そんな彼女は辰巳の方を見て「そこ、私の席なんだけど」と感情がのぞけない声で言う。


「ん? あ、悪い悪い」

「あれ?」


 僕の前の席って別な人だったよね? 席替えなんてしたっけ?

 その事を辰巳に訊くと、「いやちゃんと席の場所決まってるだろ」とどこから取り出したのか知らない座席表を僕に見せる。

 そこにはちゃんと、僕の前の人が高島さんだと書かれていた。


「……あれ?」


 おかしなことが発生した。昨日僕の前の人は確かに高島さんではなかった。高島さんは僕の隣の列の先頭に座っていたのだから。

 朝から訳が分からない事態で頭を悩ましていると、そんな僕を見た高島さんが「大丈夫?」と声をかけてくれた。けれど僕は返事せずに考え続ける。

 一体どういう事なんだろう。何がどうなっているのだろう。

 そろそろ頭がショートするんじゃないかと思いながらも唸っていたら、辰巳が「別にいいだろ、有名人の近くの席なんだから」と諭すように言ってきた。


「いやでも……」

「それに、もうすぐHR始まるぞ? お前影薄いんだから寝てたら出席とられないぞ?」

「嫌味? それ」

「ただの事実だって」


 そんじゃ。そう言って辰巳は自分の席へ戻った。なんかうまくはぐらかされた気がする。

 でも考えても仕方がないことが分かったので、僕はもうこの事について深く考えることをやめることにした。




 学校が終わり。

 姉さんは部活で梨花は見学するということで、いつも通り僕一人で帰宅。

 辰巳の家は知ってるけど帰る方向が逆だから一緒に帰ることはない。偶に遊びにそのまま向かう時とかは帰るけど。

 歩き慣れた道を沈む太陽を眺めながら進みつつ、僕は首を傾げて呟く。


「……にしても、どうして高島さんはちょくちょく話を遮ってきたんだろ?」


 辰巳や他の友達と話していると、ある個所に差し掛かった時にタイミングよく高島さんが割って入ることがあれからもあった。

 その必死さは昨日の姉さんと同じ。


 ……う~ん。


 今日の夕食の献立を考えるより頭を使っていると、急に爆音と地震にも似た地面の揺れを感じて足を止め、考え事を中断させられた。

 驚いて顔を上げる。揺れはすぐさま収まり、前方に変わった様子はない。

 周囲を見渡す。コンクリートの壁に囲まれ、壁の上からは一軒家の二階部分がよく見えるだけで、これまた変わった様子などない。

 一体何だったんだろうと疑問に思ったけどそれ以上考えない僕は歩き出そうと一歩踏み出して――咄嗟に後ろに飛び下がる。


 その瞬間。僕が足を置こうとした地面から、火柱(・・)が上がった。


 ……え?


 僕は目の前の光景に目を奪われ、声すらもあげられなかった。

 紛れもなく異常。僕が認識している現実から解離した現状。

 恐怖で尻餅をついたまま、声すらも忘れた状態。身動ぎ何て出来ず、呼吸すらままなってない。

 それなのに……この光景をどこか懐かしい(・・・・)と感じている自分に、違和感を覚えなかった。

 加速している心臓の動きを聞きながら火柱が収まるまで待っていると、背後から驚きの感情を伴った声で聞き間違えることがない身内の声が聞こえた。


「な、なんで財賀がこんなところにいるの!!」


 ……え?


 信じられなくてつい振り返るとそこにいたのは


 …………ね、姉さん!?











 ――――これがなんでか知らないけど騒々しい毎日()の幕を開ける切っ掛けになるなんて、誰が想像できようか。

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