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短編集  作者: 末吉
魔法少女がいる理由
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魔法少女がいる理由

 世の中には現実的に(・・・・)存在しない(・・・・・)モノがたくさん転がっている。右を見ても左を見ても、そんなもので溢れかえっている。


 想像力というものは無限大で、多種多様なものを思い浮かべていくもの。それは、単語一つとってもそうなのだ。


 さて。なんで夢が欠けるものを書いたのかというと、その存在しないはずのモノの一つが割と身近に、それも身内にいるからだ。

 なんというか、事実は小説より奇なりという言葉があるけれどそれはまさにその通りで、現実は、世界は、いつだって不条理であることには変わりないんだなぁと他人事のように思ってしまった。


 でもまぁ、誰だって信じたくないよね。自分の家族――それも姉妹(・・)が――魔法少女(・・・・)だなんてさ。







 あぁ唐突に物語を始めさせていただくのは僕――成神財賀(さいが)

 取り柄と呼べるものはなんだろう。友人に訊くと『優しいところ』と即答されるから、そのだけなのかな。あ、家事ができる位かな。誰でも出来るから取り柄とは言わないんだろうけど。

 身長は百七十ぐらいで中肉中背。顔立ちが童顔のせいでよく年齢を間違われるけど、これでも高校二年生だ。クラスメイトには偶にからかわれるけど。

 家族構成は両親健在で姉一人に妹一人の計五人。まぁそれは後々説明していけばいいからここで説明しないでおこう。


 何はともあれ紹介らしい紹介はしたので、始めようか噺を。

 まずはそうだね……僕が存在を知ったところから始めようか。お約束的に。


 あれは――無事に進級して家に帰る時の事だった。っていう書き出しでどうだろう。







 僕が住んでいる町は平和で、よくあるバカ騒ぎ――それこそどこかの厳つい人達の抗争とか立て籠もりとか――はないところ。これ以上住みやすい場所はないんじゃないかなって思える位騒がしいものはない。とはいったものの事件や事故というのは普通に発生してるけどね。


 今は四月。高校二年生になって学年の有名人と一緒のクラスになれた事実に浮足立って、鼻歌を歌いながら歩いて帰っている。

 僕が通っている高校は姉と妹が通う(妹に関しては通い始める)高校。家から歩いて二十分ぐらいにある全日制の公立高校。学力としては普通の高校だね。ちょっと有名人がいる位の。

 でも一緒の高校なのにどうして帰りが一緒じゃないのかというと、姉は部活動に生徒会を兼任しているからだ。僕? 普通に帰宅部ですよ。家事をやらないといけないから。それだけじゃないけど。


 ともかく気分がいい状態で歩いていたところ、T字路の曲がり角で人とぶつかった。

 あちらが急いでいたのか僕はしりもちをつき、腰をさすりながら顔を上げると、ぶつかった人は僕がいない方の道へ謝りもせずに駆け出していくのが見えた。

 立ち上がりながら一体どうしたんだろうとぼんやりと眺めていると、同じく曲がり角の方から「待ちなさい!」と聞き覚えのある声と共に猛スピードでその人は箒にまたがって飛んできた(・・・・・)

 ……え? ちょっと待って。飛んでる?

 その人は三角帽子にマントをなびかせながら箒を急ブレーキさせて曲がり、そのままぶつかった人と同じ方へ消えて行った。

 まるで車のドリフト走行だなと現実逃避気味に考えて我に返った僕は、あの横顔と小ささに見覚えがある気がしつつ帰ることにした。


「ただいま」

「ああお兄ちゃん。お帰り……どうしたの?」


 それから何事もなく家に帰れた僕を出迎えてくれたのは、今年で高校一年生になる僕の妹――成神梨花。

 十六になる彼女は中学生から結構伸びて、僕と変わらないぐらいに成長した。おまけに顔立ちが整っていて、多少不機嫌な顔でも綺麗といわれる。というか、スタイルはいい方だからね。中学生の雑誌モデルを一時期やってるとか友達から聞いたなぁ。僕はあまり知らないけど。あまり口をきいてくれないから。

 それでも洗濯やる度とか出掛けるのを目撃する度に服が変わっているのを見て納得したけど。


 そんな一種の冷戦状態にいる梨花の方から話し掛けてくるなんて珍しいと思いながら「ちょっと不思議な光景を目撃してね…」と返す。


「どんな?」

「三角帽子かぶった小さい人が箒にまたがって飛んでいたっていうのなんだけどさ、しん」

「夢でも見たんじゃないの?」

「帰ってきた時なんだけど……」

「白昼夢よきっと」


 僕の発言をことごとく否定する梨花。その様子はどこか焦ってる気がしなくもなかったけど、やっぱり信じてもらえなかったなぁと思いつつ僕は制服を脱ぐために自分の部屋へ戻ることにした。


「ああ梨花。制服似合ってるよ」

「お兄ちゃんに褒められても嬉しくない」


 ですよね。




 二階へあがって自分の部屋へ。

 まぁ僕の部屋は特にいかがわしいものはないというかそもそも買う気が起きないから目立つものがない部屋だけど、ベッドと勉強机と本棚とクローゼットぐらいあればいいっていう感じでその要望通りですよ。一番地味だよ家族の中では。

 制服とYシャツをハンガーにかけてパンツとシャツと靴下になった僕は、クローゼットを開けてタンスの中から適当に私服を見繕って着替える。

 今日は薄緑の半そでに勿忘草色にまで色落ちしたジーパン。まぁ適当だから色がおかしいなと思う時もあるけど、今回はいいかな。

 五年は穿きつづけているジーパンを穿き終えた僕はそう思いながら部屋を出ると、丁度梨花が姉さんと一緒に二階へあがってきた。


「今日はマシねお兄ちゃん」

「やっぱりそう思う? あー良かった」

「財賀ー」

「っと」


 身長百四十ぐらいの姉がのんびりとした声で駆け寄って来たかと思ったら抱き着いてくる。それを僕はしっかりと受け止める。


「財賀の身体気持ちいいよーこのまま部屋まで連れて行ってー」

「ぐりぐりしないでよ姉さん。地味に鳩尾に入ってるから……それに、姉さんの部屋は階段から一番近いでしょ。ほら戻って戻って」

「運んでよー」


 引き剥がそうとも引き剥がせず、ダダをこねる子供のように甘えた声で抗議しつつ抱き着いてるのを忘れない姉。

 毎度の如くやってくるので対処方法は分かるけど、それでも困ることには変わらないので咄嗟に梨花を見ようとしたところ、いつの間にかいなかった。


「あれ?」

「どうしたの財賀ー?」

「梨花、入学式に行った?」

「一階にいるよー多分」

「ふーん」


 そう言いながらも僕は歩いて姉さんの部屋の前へ。


「着いたよ姉さん」

「うー財賀のいけずー」


 頬を膨らませてそう言いながらも降りた姉さんは、それでも次は笑顔になって「着替えてくるね」と部屋の中へ。

 それを見届けた僕は一瞬視界に入った姉さんの部屋の中をスルーしてリビングへ向かった。


「財賀」

「母さん。梨花の入学式もうすぐなのになんで料理作ってるの?」

「なんでって、財賀と美樹のお昼よ、これ」

「ちゃんと止めたのよお兄ちゃん。『お兄ちゃんが料理できるからいいでしょ』って。なのに母さんったら聞かなくて……」


 ソファでそわそわとしながらも状況を説明してくれる梨花。

 母さんの天然には毎度のこと呆れるよと思いながら内心でため息をついた僕は、「あとは僕が作るからさ。せっかく着替えたのに行かなきゃ損でしょ?」と母さんに進言する。

 それを聞いた母さんの調理の手が止まり、コンロの火を止めた音が聞こえた。それからパタパタパタとスリッパで掛けてくる音と同時にソファにエプロンを投げ、「行くわよ梨花!」と朝から着ていたおめかしした格好でそのまま出て行った。


「娘おいて先に行く母いる?」


 ハァッと母さんの行動にため息をついた梨花はカバンを持って立ち上がり、母さんとは反対にゆっくりとした足取りで「行ってきます」と言って出て行った。


 残された僕はエプロンをたたんでソファに置いてから、作りかけの昼食を完成させにキッチンへ向かった。



「財賀ー」

「待ってて姉さん。もうすぐ終わるからさ」

「分かった待ってるよー」


 そう言いながら姉さんはテレビがあるソファに座ったらしい。テレビがついた音が――


『次のニュースです。魔』


 ――ブツン。消えた。


「どうしたの?」

「な、なんでもないよ財賀ー」


 不思議に思った僕が聞いたら慌てる姉さん。口調は変わってないけど、少しだけ上ずっていた。

 でも僕はその事を深く考えずに「そういえば姉さん受験とかどうするの?」と進級した際にぶち当たるであろう疑問をぶつけてみる。

 すると姉さんは「あーあー聞こえないよー」と返して来た。おそらく耳をふさいでもいるのだろう。見た目通りどこか子供っぽいからな姉さんは。


 ああ、うちの姉さんの紹介をしてなかったね。成神美樹。身長はまぁ百四十ぐらいで、高校三年生だとはとても思えない。童顔のせいでさらに見えない。綺麗とかそういうのじゃなく、愛らしいとか可愛いとか言われてる。実際僕の友達にも姉さんを愛でたいとか言ってる人いるし。

 本人はコンプレックスだとは思っていないようで、「財賀に甘えられるー」と随分弟想いの発言を年齢詐称しているんじゃないかと思えるほど純粋な笑顔を浮かべながら答えてくれた記憶がある。


 そんな感じで周りの人からとても親しみを持たれている姉さんが案の定耳をふさぎながら画面がついてないテレビを見ているのを料理を運びながら見た僕は、苦笑しながら目の前に皿を置く。母さんが作りかけたチャーハンを。


「はい姉さん」

「……」


 どうやらいじけたらしく、未だ耳をふさいでいる。

 どうしようかなと思いながら僕は台所へ戻ってスプーンを二つ取り出して一つは姉さんの方へ、もう一つはそのまま僕が持ったまま。そして考えるのをやめてチャーハンを食べ始めた。


「いただきます」

「……いただきます」


 あ、ついに姉さんが折れた。それを機に僕はチャーハンを食べながら「ごめんねさっきは」と謝る。

 それに対し姉さんは「いいんだよー」と許してくれた。やっぱり年上の人はすごいね。


「財賀がケーキを買ってくれればー」

「…流石にそれは高いんじゃないかな?」


 前言撤回。この人さっきのダシに使って要求してきた。


 姉さんが要求するケーキというのはホール単位。いくら食べても太らない体質だからか、ケーキを食べる際は一ホールが当たり前になっていた。ケーキバイキングだったら十ホールぐらい行くんじゃないかな…確か。

 ともかく甘い物好きで体躯に見合わないほど食べるので、ケーキを要求されると僕の財布は一気にレッドゾーンへ向かう。

 さすがにそれは回避したいなと思いながら、僕は「頭なでなででいい?」と完全に年下の扱いになっていると自覚しながらも訊ねる。

 けれど姉さんは「いや」と譲ってくれなかった。


「ケーキが良いのー。財賀が作ってくれたショートケーキが良いのー」

「えー辛いんだけど」

「作って作って作って作って作って作ってつくって~~!!」


 食べるのをやめてスプーンを持ったまま手足をじたばたさせる姉さん。みっともないと思ったけど、さすがにそこまで言われるとどうしようもないので。


「……分かったよ」


 折れることにした。

 その言葉を聞いた姉さんは「本当に!? やったー! ありがとう財賀ー!!」と喜びだした。

 はしたないなと思った僕は、「食事中に騒がないでよ姉さん」と窘めておく。

 それを素直に聞いてくれた姉さんは「はーい」と元気良く返事をしてそのまま昼食を食べ進めた。


 材料費は自費だなと思った僕は、バイト考えようとひそかに思った。


「そういえば姉さん。さっき梨花には否定されたんだけどさ」

「どうかしたのー?」

「姉さんみたいな背丈で三角帽をかぶって箒に乗って飛んでいた女の子をね」

「夢でも見たんだよ」


 さっき梨花に話した内容を姉さんにも聞いてもらおうと話題に出しかけたところ、すぐさま姉さんは真剣な顔をして否定した。

 あまりにも強い口調できっぱりというものだから驚いた僕はスプーンの動きを止めて瞬きをしてから「え?」と聞き返したけど、同じように「夢でも見たんだよ」の一点張り。


 流石にきっぱりと僕の頭がおかしいと言われてるのを感じたので、僕は諦めて何も言わないことにした。


 ただ、姉さんが明らかに挙動不審になっているのが気になった。

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